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JAD-226「生きるための理由」


『結論から言おう。好きに生きるといい』


「……は?」


 モニターの向こうで、機械人形がこちらを見つめてくる。

 そこから感情は読み取れないけど、冗談を言っているという感じではなかった。


『戸惑っているだろうか? 怒っているだろうか? いずれにせよ、感情が生じているならば、それは成功だ。計画が上手くいっていれば、いくつもの記憶があるはずだ。荒野を、さまざまな生き方で過ごした記憶が』


「これって……レーテ……」


「そう、ね。私がゲームという形で記憶していること、それはこの人らの設定したことだということ?」


 じわりと、胸が痛む気がする。

 機械人形……そこに宿った人格の言葉を借りるなら、それこそが目標。


 自己判断をする存在、それを目指していたのだと。


『何が正しいのか、私たちにもわからなかった。事実上の棄民だとしても、元の星へと資源を送るべきか、この星で人類が生きられるようにすべきか、自然の淘汰に任せるか、等。1つの誤算は、遺伝情報と作業機械による環境の汚染だ』


『その影響を私たちが感知した時には、もう推定ではあるが、深海まで影響が及んでいた。星の半分以上は海洋。その深部まで影響が出ているとなれば、後は陸上へも影響が波及する。そう考え、対策を講じることにした』


 途中に無言の時間があるのは、聞いている側が咀嚼する時間をということなのか。

 狙い通りに、ひとまず言っていることに思考を巡らせることができている。


『資源採取用の機材、システムを改良し、異常生物が住み着く前の環境を維持・再生しようとするサイクルを計画した。また、運よく星の力がすでに流れを作っていたのでそれも使うことにした。巨大な石くれの人形により、それは果たされる。設備は地中深めに設置しておいた』


『そして、私たちは結論を私たち自身が行うべきではないと考えた。将来に生きる人類が判断すべきと、思ったのだ。ゆえに、敢えて様々な立場、目的での経験を積み、記憶とした存在を設計、生み出した』


「それが私……」


 あっさりと、自分の正体が語られる。

 ショックではあるが、納得もする話だった。


『ただ機械的な判断をする存在ではない、人間。残念ながら、多くが眠りから覚めずに崩壊することになったが、数体は成功しそうな見込みである。別アプローチである機械生命と出会うことができれば、より人間らしい生き方ができるだろう』


 今度はカタリナの存在も示された。

 その後も、機械人形は抑揚のない声で語り続ける。


『以上のことから、私たちはあくまで力と、自由意志を遺すのが正しいと判断した。願わくば、楽しい人生だと感じられる、納得いく人生を』


 ぷつんと、映像が終わる。

 沈黙と静寂が、耳に痛い。


「ふぅ……ま、やることは変わらないわね」


「そうです……ねっ」


 実際、強がりというわけじゃない。

 もともと、普通の人間ではないのはわかりきっている。

 逆に、好きに生きていいと保証されたわけだ。


「じゃあ、外に……ん? 再生自体は続いてるのね」


 映像は終わっているが、それは最初の録画がそこまでだったというわけのよう。

 再生機器自体は、まだ動いている。

 つまり、無音、何もない動画部分だったということ。


 それが、変化する。


『まだ使えるな……よし。誰かが見つけてくれることを祈っている。この星にたどり着くまでのデータを解析していたところ、よくない情報があった。かなり先のことだが、宇宙を漂う小惑星がこの星に衝突するコースだった。突貫作業ではあるが、各個体の中に星の力を引き出すトリガーを仕込んでおく。手順は私の体に残しておくので参照しろ。必要にならないことを祈る。祈ってばかりで、科学者失格だな。ああ、時間もわずかか。これを聞いている人間よ、生きろ、以上だ』


 今度こそ、映像は終わった。

 再生も止まり、間違いない。


 メディアを手に、動きを止めた機械人形を見る。

 その手に、1枚の金属板。

 そこに彫られた文字は、映像にあったトリガーの手順だ。


 古来、石板に刻んだ文字が一番長持ちするとされていた。

 そんな記憶が、よみがえってくる。

 長い時間を耐えるよう、刻まれた内容を読み込む。


「行きましょう」


「はいっ」


 機械人形の手をきれいに整え、お休みとつぶやく。

 頷きが返ってきたような気がした。


 


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