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JAD-225「権利の行方」



 引きこもった部屋。

 第一印象はそんな感じだった。


 ブリリヤントハートから降り、周囲を確認する。


「生活区画と、こっちは生産設備……かしらね? あっちが培養……」


 おそらく、古今東西で縦のシリンダー状の容器、といえば培養的な役割だと思う。

 大きさはそう、人型が1体入りそうなもの。

 それが、10本ほど並んでいる。


 すでに、中の電源は落ちており、溶液も入っていないけれど。


(ここ……もしかしなくても……)


「下手に探索すると危ない気がするんですけど」


「大丈夫よ。中身がないなら、何もできないわ」


 不安そうなカタリナに、私ははっきりと答えた。

 どうして、とは彼女も聞いてこない。

 何度目かの、私の記憶の問題だ。


 ゲームとしての記憶、その中に……あった。

 敵対勢力の、操縦者を量産する施設、そこによく似ている。


 それだけじゃない。

 ここは、私もいた……ような気がする。


「うーん、もしかして私、製作者の意図と違う行動してるのかしらね?」


 つぶやきながら、向かう先は生活区画と生産設備の間にあるデスク類。

 一体、何年の時間を過ごしてきたのだろうか。

 紙の類は、触れたら崩壊しそうだ。


 どこかで湿気等を管理しているのか、古いけれど、劣化は思ったほどではない。

 錆の1つぐらい、浮いていてもおかしくないはずだ。


(案外、そう昔でもないのかも)


 そう思ったのは、立ち並ぶデスク類の一番奥、一番大きな椅子にあった存在が原因だ。


 動きを止めた、人形。

 機械部品がむき出しで、人間ではないとわかる姿。


「動力は落ちてます……おそらく」


 もしかしたら、を考えるとなかなか言い切れないわよね。

 これまでにも、そういう相手に出会ってきた弊害だ。


「役割を果たした……少し違うか」


 前に回り込み、観察する。

 明らかに機械とわかる体のつくりと、顔。

 似せることもできたはずなのに、敢えて無骨な姿にしたのだろうか。


 背筋を伸ばし、びしっと座った状態で、目に相当する部分は閉じている。

 その手元には、記憶メディア。


「再生機材は……これね」


 バッテリーの心配は無用だ。

 小さいけれど、石の力を動力にすることがわかる形状をしている。


 スピーカーとモニターのついたそれに、メディアを投入、再生を試みる。

 経験劣化でだめになっていることを覚悟していたが、無事に再生されていくのを感じた。


「動画記録のようですね。動いてるのは……みんな機械のようです」


 頷き、映像に集中する。

 忙しそうに動く機械、そして中身のあるように見えるシリンダー。


 と、動きを止めている機械らしき人型が中央に来た。


『これを見ているのが、人類であることを祈る。機械人形の私が祈ると口にするとは、まったくばかげた話ではあるが。もととなった科学者の思考に文句は言ってほしい』


『私の元人格は、他星移住団64便の所属だ。むろん、生体は不可能なので復活優先者としての電子コピーである。必要に応じて、人体を再生、思考を書き込みする仕様だ。多少の劣化はあるが、許容範囲内である』


 抑揚のない声。

 これは元の人格の問題なのか、機械の問題なのかわからないところだ。


 科学者、その人格を宿したとされる機械が語るのは、これまで仮説としていた内容だ。


『64便とあるように、他にも多くの団が宇宙に飛び出し……いや、元人格の推測ではあるが、廃棄された。そう、資源の持ち帰りというのは初期の建前だ。いつしか、母星の負担を少しでも減らすための、変則的な自殺への参加、と言えるだろう』


『一便あたり、数千から1億ほどの人間が電子化、遺伝情報を記録する形で乗っている。元の体がどうなったかは、考えたくはないが……ろくな結果は待っていなかっただろうと推測できる』


「1つの星にそれだけ人間がいたとは考えにくいです。ということは……」


「ええ、そうね。何十年と小分けに続いたんだわ。このばかげた旅のお誘いは」


 立候補だけでは、枠は埋まらなかったような気がする。

 おそらく、それは正しい。

 騙されて、なんてこともあったんじゃないだろうか?


『電子化された思考は、長い時間を使って会議を続けた。無事にたどり着いたとして、どうするかを。すでに生き物がいたら、それらを支配下に置くのか? それとも、溶け込む形で過ごすのか。仮に人間がすでにいたとして、自分たちがどうにかする権利があるのかと』


『一つ確かなのは、力なき存在では、意思を貫くのは難しいということだ。私は、私の元人格たちは、共存を選んだ。ゆえに、選んだ。星の頂点に成り代わろうとする同胞を抑え込める力を持つ存在を作り出すことを』


 そこで言葉は一度止まった。

 表情のわからない、機械の顔がこちらを見つめているような気がするのだった。




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