JAD-224「持って行かなかった過去」
「動体反応なし。何もいませんね」
「そりゃあ、外にドラゴンがいたんじゃね」
虫ぐらいはいると思うけど、小動物は気配もない。
第一、餌もないもんね。
外から風が入り込んでいるのか、砂埃がひどい。
ブリリヤントハートの歩いた跡が、くっきり残るほどだ。
「誰か来た形跡もなし、と。ふうむ……」
「暗いままですしね」
私たちが前に立ち去った時のまま、だ。
ライトに照らされた洞窟内も、静かすぎる。
しばらく進み、この機体が待機していたはずのハンガーがある区画が見えてくる。
そこに入る前に、立ち止まらせた。
「特に反応ありませんけど……」
「ほかの部分に、何もいないのはなぜかしらね」
何かというと、視界にあるハンガー部分。
そこには、もう何もない。
けれど、私がブリリヤントハートを選んだ時にはほかにもいたような気がするのだ。
気のせいということになるんだろうけど、どうもすっきりしない。
記憶がはっきりしないのは、こうももやもやするものだっただろうか。
そもそも、5、6機は空きがある。
「それはわかりませんけど、レーテ……あの区画、電源生きてますよ。奥の扉はだめですけど」
「え? ほんとだ……」
ハンガー部分は、うっすらと明るい。
ライトをずらしても、見える程度には、だ。
電源となる石をどかした奥に向かう扉は、明らかに沈黙しているが。
ゆっくりと、ハンガー部分へと機体を進める。
広さは、つい先日次元収納を行ったガレージと同じぐらいの……って。
「よく見ると、今なら読める……」
ただの模様だと思っていた部分が、何か文字だということに気が付いた。
大きな模様は、大きな文字だった。
(昇降用……ということは……)
コックピットを開き、床へと飛び降りる。
こういう場合、人間サイズで操作できる場所に……あった!
何かカードを通すでもなく、石をはめるでもなく。
一見すると、なんでもない壁の模様。
でも今なら、読める。
昇降スイッチと書かれた模様が。
そこに指をかけ、蓋を開くようにすると、丸いパネルが見えた。
押せる仕組みではないけど、私にはわかる。
石の力を注ぐ、JAMの操作機構に似ている、と。
「どうしますか?」
「カタリナは中にいて。どのぐらいがいいかはわからないけど……よしっ!」
多くて困ることはあるまいと、腕輪の力を借りつつ、実行することにした。
適当につかんだいくつかの石を媒介に、力を台座に注ぐ。
とたん、床や壁に光が走り、揺れる。
「上の部分は、ダミー……とまではいわないけど、別物か」
最悪、上が吹き飛んでも下の施設は無事なように、ということだ。
降りる距離的にも、それは間違いないだろう。
上から落ちてくる砂に少しむせつつ、コックピットへと戻る。
「ようやくね。さて……」
「もう、故障して落ちてくとかあったらどうするんですか?」
「あ、それもそうね。気を付けるわ」
私自身、どこかで故障はしていないと感じていたのだろうか?
あるいは、覚えてないけど覚えているのかもしれない。
そんなことを考えてるうちに、ガコンと揺れを感じた。
「止まった……危ないならすぐ戻らないとね」
「上には飛んで行けそうですから、最悪飛びましょう」
頷き、ぽっかりと目の前に開いた空間へと進む。
照明が所々にあるのか、何とか見える。
それでも暗いので、ライトをつけ……息をのむ。
「これは……お墓?」
「長いコンテナにも見えますね」
昇降機だったハンガー区画から出た先は、広い通路だった。
その左右に、いくつもの長方形の箱が並んでいた。
思わずお墓と言ってしまったのは、前に探索した場所にあったものと似た雰囲気だったから。
下手に降りず、モニター越しの観察を続ける。
まだ奥に続いているところを見るに、かなりの広さだ。
「どうしますか」
「進むわ。呼ばれてる……気がする」
ゆっくりと、機体を進ませる。
視界に、人影のような何かを見たような気がした。




