JAD-223「二度目の帰還」
ドラゴン、生き物としてはおそらく最上位に位置する存在。
空想の存在だったはずのそれは、今この星で生きている。
「前は、どうやって生きてるのか不思議だったけど、かなり燃費がいいのね」
「そのようですね。そして、石の力を使っている……」
望遠映像の中では、かなり大きくなったドラゴンの子供と、その親。
2頭だけなので、結局あれから平和に過ごしているようだ。
もしかしたら、父親側がちょっかいを出しに来ていたのかもね。
ドラゴンは雑食、そう思っていたけど微妙に違った。
西の方で遭遇したドラゴンは、知性ある存在だったうえに、この2頭と同じく石をかじっていた。
私が水を生むように、必要なものを生み出していたんだと思う。
そして、虹色の結晶から知識を得ている。
ドラゴンは、ただの動物では、ない。
「話し合いは別にして、殺しあう必要はないわね」
「私はまだ怖いですよ。言葉はしゃべりませんから」
カタリナの記録、記憶には人間の争いも入っているんだろう。
語り合える相手ですら、争うのに、語れない相手であれば、というわけだ。
それでも、このまま殺しあうのは不毛だともわかってくれているようだ。
次元収納から、虹色の結晶をひと固まりコックピットに出す。
予想通り、共鳴するように結晶が瞬き、力が揺れている。
「これを手にするまで、気が付かなかったけど……あの岩山、流れがあるのね」
そう、私が目覚めた岩山に、同じように星の力の流れと、虹色の結晶が溜まる部分がある。
そのことを結晶が教えてくれる。
交渉が決裂することも一応考えつつ、ブリリヤントハートを進ませることにした。
敢えて砂煙をあげて、滑るように地上を進む。
そろそろ飛行も十分できそうだけど、まだ少し不安が残る。
成長と修復が、妙な感じに絡み合ってるようなのだ。
「武装はどうしますか」
「手には持たない。何かあれば逃げるわ、いったんね」
「幸運を祈ります」
やってみなければ、わからないことは意外に多い。
ドラゴンとの出会いも、似たようなものだと思う。
無謀と、大胆は違うのだとわかった上で、だ。
望遠しなくても、岩山とそこにいる巨体がわかるような距離になった。
力を放つつもりはないけれど、こちらをわかってもらうために力を練り始める。
ブリリヤントハートの動力が出力を上げ、見える存在からは明るさが増したことだろう。
「レーテ」
「わかってる。ふふ、見てる見てる」
親ドラゴン、おそらく母親側は体を起こしたのを感じた。
子供側は、まだわかっていない様子だ。
相手も、私のことを感じているんだろう。
自分を害することができる牙を持つ存在だと。
つまり、どう迎えるのが正解か、迷っている。
(案外、前のあれを覚えている?)
別のドラゴンの襲撃を退けた時に、当然この姿は見られている。
人間の姿であればわからなくても、このぐらい大きい機体ならわかるかもしれない。
そう考えるうちに、どんどんと互いの距離は縮まる。
もう肉眼でも見える距離だ。
「この辺、かしらね」
「相手の体の中で、力が上昇してます。石の力を、やっぱり使ってますね」
「そりゃあ、ねえ……逆に生身だけでああだったら怖いわ」
機体を止め、コックピットから一時的に体を出す。
私の手には、虹色の結晶が一塊。
ぎりぎりコックピットから出るぐらいの大きさのそれを、機体の手に持たせる。
「さてっと……」
操縦席に戻りつつ、虹色の結晶に意識を向ける。
水晶だと思うけど、組成は結構違うというか、混ざってる気がする。
ブリリヤントハートの手からすると、ガラス玉のようなサイズの結晶が、光る。
同時に、ドラゴンの表情も変わった気がした。
モニターでそれを見つつ、機体を歩かせる。
結果、襲撃は受けずに岩山を登ることができた。
ドラゴンはわざわざ、場所をあけてくれた。
なんとなく、これで襲撃されることはないだろうなと感じた。
「子ドラゴンが動きますね。親の後ろに……警戒してますかね」
「たぶんね。あの辺はドラゴンが掘った部分か……」
入口とは違う場所に、大穴。
そちらに行ってもいいのだけど、やはり本来の場所に行くべきだろう。
あの時は見つからなかった、さらなる地下へと。
電源の落ちた、暗闇に探し物だ。




