JAD-221「見えない過去」
結果として、また1つ撃墜されるわけにはいかない理由が増えた。
「ということになるわね」
「そうですね。下手に撃墜されると、この空間がいきなり外に出てくる……それだけじゃすまない?」
区画の確認を終え、動力やその使い方、諸々を調査していく。
広さはまあ、それなりだろうか。
ブリリヤントハートをフィギュアのようにケースに入れたとして、そのケースが数個並ぶ感じ。
建物としてのガレージと比べると手狭だが、移動すると考えると十分すぎる。
「そうね。ただあふれるだけならいいけど、別の空間に収納なんてのは不思議な技術だもの。周囲がぼんってなってもおかしくない」
便利だから、利用はするのだけどね。
損壊により機能停止した区画は切り離し、無事な部分をひと固まりと設定。
無人機たちはガレージ内で待機させる。
ものすごい乱暴に言うと、移動式の仮設工場を手に入れた状態だ。
戦闘中や、狭い場所では展開できない。
どこか荒野や自然の中など、広い場所に展開し、中に……という形だ。
(次元収納自体は、コックピット真後ろ付近っと)
背面側のブースターとかとは干渉しない部分、そこに次元収納用のブロックがある。
外から見ると、人間でいう酸素ボンベみたいな少し細長のタンクにしか見えない。
なお、中では一応時間は過ぎるらしく、本当に別空間、別次元(に見える)への収納らしい。
「これで、工場とかによらなくてもよくなりますかね?」
「いやー、どうかしら。これはこれ、それはそれじゃない?」
実際、確認してみたがなんでもいけるわけじゃなかった。
どちらかというと、中核の技術が強く、細かい部分は苦手という印象。
つまり、機体そのものは解析やいじることはできても、武装の作成は微妙、ということだ。
「たぶん、それ以上はなかったのね。持ち出せなかったのか、もともとなかったのか……はわからないけれど」
ちょうどいいといえばちょうどいい。
例のロマンを理解する工房に行けば、武装の相談はできる。
今の私たちに必要なのは、それ以外のことだ。
ガレージを次元収納に入れ、ぽっかりと開いた空間を見つめる。
「コピーしたデータから、色々確認しておかないとね」
「結局、人類はお互いに時間差でにらみ合ってる状態なんですかね……」
たまに忘れそうになるけど、カタリナ自身は機械の体だ。
施設などから得られたデータを自身にコピー、内包している。
解析は後から、というデータが増えてきていると思う。
そんな彼女だからこそ、複合的にそれらを見ることができていると思う。
「そうよね。10年、20年、あるいはもっとか。時間差で宇宙に旅立った存在が、同じく時間差で星にたどり着き、文明を起こしたか合流したか。そして、気が付いたんでしょうね。目的の違う同胞があとからやってくることに」
考えてみると、とても滑稽というか、悲しいというか。
同じ人類をもとにしているのに、その星で生きることを目指す組、そうでない組。
あるいはほかの考えで打ち出された存在が、同時期にぶつかった。
「案外、気が付いてないままにぶつかったのかもしれませんよ。片方は機械のままだった可能性だってあります」
「それもそうね」
残っている歴史から言っても、その可能性もある。
隕石が、石の力をもたらし、同時にミュータントが世界にあふれ始め……。
ここがポイントだ。
隕石が落ちてきたのは、そこが初めてではないのだと思う。
正確には、観測され、記録が残っていた隕石はそこが初めて、だ。
もっと前に人類の意思をまとった隕石が落下し、人類を再生、あるいは現地の人類に溶け込む。
別の大陸では、資源を採取、打ち出す機械群も活動しており……なんて感じだ。
「文明はなぜ滅んだか。何かの意思を感じるのよね」
あるいはそれは、必要以上の発展を阻止するための……星の意思なのかもしれない。
そんなことを思いながら、船跡から機体を移動させるのだった。




