JAD-220「手のひらに世界を」
謎の船、その動力は力を取り戻したようだった。
長年、半端な状態で動力が動いていることにも驚くが……。
「いえ、低出力だったからよかったのかしらね?」
「いつ頃から動いてたかにもよりますよね。さあ、どう調べましょうね。いわゆる発電がされているようです。石の力と、違うものを感じます」
「なるほど……?」
確かに、私の目にも石の力が見えているが、それ以外の気配も感じる。
ある意味慣れ親しんだもの、電力で間違いないだろう。
ということは、この船はこの星の技術と、宇宙からの技術が混ざっている?
「船内システムよりJAMへ通信、回します」
「必要ないわ。こっちにも来たようよ」
小型の無人機が、昆虫のように多脚をうまく使って近づいてきた。
人間サイズのタブレットを携えて、だ。
目の前に止まり、そのタブレットが光を発する。
「これは……」
タブレットには、言葉が表示された。
内容は別にして、その表示に驚く。
私たちが良く知っている言葉と、最近解析をしているおそらく宇宙からの人類の言葉。
その両方が、並んでいたのだ。
(この短期間に、私たちの使う言葉の情報処理がされた? いえ、これは……)
「どうやら船の主だったのは、この星に定着した人間みたいね。子孫なのか、生み出されたのかはわからないけど」
「もしかして、音声も拾ってるかもしれません」
頷き、タブレットに返事をする。
外の情報を持っているか否か、という問いへ肯定を。
何度もタブレットの画面は切り替わり、その質問へと答えていく。
時には口頭で、時には書くという形で。
そうしていくつかの回答の後、表示が切り替わる。
「経年により、所有者死亡とみなし、権利譲渡を希望する……か」
誰にでもというわけではないのだろう。
何かを条件に、私を同胞と認識しているのだ。
「質問があれば? ずいぶん丁寧ね。じゃあ……」
私を譲渡先と認めた理由を。
そう入力したとたん、画面が揺れる。
限界が来たのか?と思ったけど、そうではなかった。
改めて表示されたのは、人。
シルエットだけど、人間だとわかる。
何か光をまとっている人が、複数表示された。
その光が少ない人には、バツが。
そして、光の量が多い人には丸が。
「ずいぶんわかりやすいですね」
「ええ、まったくだわ。つまり、石の力をある程度以上使えないといけない、と。たぶん、船の操作に必要なんだわ」
ちらりと動力側を見ると、今も順調に稼働中だ。
譲渡の理由などはわかったけど、このままもらいますというわけにもいかない。
とはいえ、一度受けないとどうしようもないだろうとも思う。
最悪、破棄しようと考えつつ、承諾の返事を。
すぐに、管理用のメニューらしきものが浮かび始める。
船体の状態把握も含まれており、今いる区画と動力、生産設備以外はだめなことがわかった。
「拠点にするにはいいのだけど……」
「ひとまず生産設備を見てましょう」
その通りなので、無人機を引き連れながら隣にあるらしい生産設備へ。
扉をくぐり……固まった。
「レーテ……」
「またみることになるとは、ね」
そこに広がっていたのは、工房、ガレージ。
少し前に別の場所で見た、ゲームの記憶にあるような空間そのものだった。
「ここも封印しないといけないのかしら……んん?」
目の前に投影されるメニューに、追加があった。
なんとも都合のいい言葉が躍っている。
すなわち、別次元空間への区画収納、その処理メニューだ。
「この子、案内役かしら」
「おそらく? ずっとついてきてますし」
タブレットを持っている無人機に向き直り、タブレットへと入力する。
車両やその類で、この空間をコンテナとして収納、運べるのかと。
返事は……肯定だった。
「ははっ、まるで手のひらに世界をのせるような話ね……だめもとか、やってみましょ」
「了解しました。データの確認を行います」
ブリリヤントハートにも装備された次元収納。
そこにはトラックと、雑貨類が多く収納されている。
しばらくの調整と確認の後、それが可能であることを知る。
驚くべきことだけど、私は不思議と納得していた。
これが、ゲームとしての記憶にもあった、どこでも工房に入れる理由だ、と。




