JAD-219「知らない過去」
「昔の人も、ロマンを追いかけていたってことかしら?」
「それにしたって、水上船のまま空を飛ぼうなんて……無理筋ですよ」
一見、朽ち果てたたようにも見える船。
草木に覆われ、錆も多い。
周りを無人機がうろついていなければ、スルーしていたであろう状態だ。
船の周囲をよく確認してみた結果、驚くべきことがわかったのだ。
本体は水上船で、下側各所に飛翔用のブースターをいくも増設されていた。
(普通の燃料推進じゃ無理よね。これ、石の力を使うんだわ)
星をめぐり、石を媒介に発揮される力で星から飛ぶ。
矛盾を内包した、不思議な存在はそれなりの大きさ。
「先端は折れてる感じ?」
「はい。いくつかのブロックに分かれてるようですね。これはJAMと似てますよ」
「言われてみれば……ええ、そうね」
こうしてる間も、無人機はこちらをうかがいつつ、待機しっぱなしだ。
なんだかとてもむず痒い。
「そろそろ、中に行きましょ」
「了解です。今のところ、特に問題はなさそうです」
頷きながら、無人機の誘導めいた動きに従い、船の横腹になるだろう場所へ。
ぽっかりと開いた扉は、ブリリヤントハートもそのまま入れる大きさだ。
外からは、陽光に照らされて古びたコンテナのような内壁が見えていた。
……のだが、くぐった瞬間、変化がある。
「何か膜みたいなのがある?」
周囲の光景が明らかに違う。
後ろを振り返れば、確かに森は見える。
けれど、外から見えていた光景はなかった。
いつかの塔のような建物にあったような、偽装用の仕組みだろうか?
古びてはいるけれど、無数の機械群。
電源の入っていないそれらは、出荷待ちの倉庫のようだ。
「隕石のあれと似たようなものでしょうか」
「うーん、違うと思うわ。外から見た時に中身が見えないようにって感じね」
言いながら、私は機体を止める。
そして、コックピットを開いた。
「レーテ!」
「大丈夫、だと思う。ほら、乗ったままじゃ探索もやりにくいもの」
広さはそれなりだが、JAMのままだと狭く感じる。
念のためにライフルやブレードは装備しつつ、外へ。
慌てた様子でカタリナもついてくる。
「まったく、何かあったらどうするんですか?」
「その時はその時よ。ええっと……たぶん、こっち」
なぜだか、どっちが重要区画か、そういったものがわかる。
足元に気を付けつつ進み、重厚な扉をいくつも開き、進む。
そうして、動力炉だろう場所にたどり着く。
「警告灯かしらね? 枯渇……ううん、違うか。わかる?」
「あそこ、石に違うのが混じってますね」
中身の見えるボールを巨大にした、それが動力炉の第一印象。
その中身は、細かな配線が模様のようになっており、まさにJAMにもある動力炉そのもだ。
ちなみに、クリスタルジェネレータという名前自体、どこで覚えたのか定かではない。
現状、出力が上手く上がらない、といった様子だ。
その原因は、いくつも中にある石のうち、1つが種類が違うからだろう。
名前はわからないけど、他5つぐらいとは違うのはわかる。
配置はあってるけど、これじゃあだめだ。
「動力を落とすにはどうしたら……レーテ?」
「確かこっちをこう……うん。よいしょっと。どうしたの?」
「どうしたのって……なんで操作出来たんですか?」
(え……? あ、そうよね……)
私は今、動力を停止させ、1つを取り出し再起動までした。
数が減り、最大出力は下がっただろうけど効率は大きく違うようだ。
見るからに調子良さそうに、クリスタルジェネレータは光り始める。
手にした石は、拳大の結晶体。
そばの机にそれを置き、自分の手を見つめた。
「なんでかしら……たぶん、記憶にある何かと一致したからだと思う」
「やっぱり、里帰りはしないといけませんね。レーテの記憶がどこまでのものか、よく調べないと」
空気すら清浄になっていくのを感じながら、彼女の言葉に深くうなずくのだった。




