JAD-216「止まり木での休息」
「私は旅の途中なの。ごめんなさいね」
「いや、気にしないでくれ。言うだけ言ってみた、というやつさ」
援軍が来た時には、すでに車両を引き連れて私も戻るところだった。
彼らの出番を奪った形になったけど、そのことは指摘を受けない。
軍でもなく、討伐数で儲けが出る仕事でもないので、誰もそこは気にしない様子。
集落に戻り、追われていた車両の報告などがあり、解散。
両親に子供たちを引き渡し、その時に開拓団に参加しないか誘われたというわけだ。
「その代わり、いる間は討伐なんかは手伝わせてもらうわ」
「助かる。怪我やそれ以上のことは、なかなか厳しいからな」
「そうよね……ひとまず、テントに戻るわ」
挨拶を交わして、借りているテントへと戻る。
その途中、集落の面々を観察する。
みんなやる気というか、生きる活力に満ちているのがわかる。
医者なんてものが、満足にないのが開拓地だ。
ただ、この星の人間たちは思ったより丈夫である。
清潔な水と、食事さえちゃんとしてればそうそう死なないようにも見えた。
(冷静に観察すると、植物がやばいのよね。石の力みたいだけど……)
人が生きていくためには、食料が必須だ。
水は川や井戸をといった手段があるが……食べ物はそうもいかない。
私の記憶からすると、必要な畑の面積と比べて半分以下だ。
それでも大丈夫な理由は、石の力だと推測している。
石の力で水をまき、石の力で土も掘る。
結果として、もともとの数倍の成長速度を実現しているようだ。
「そういえば……」
少し前に、鉢植えとして確保した植物を思い出した。
私は忘れていたけど、カタリナはたぶんお世話をしているだろう。
そう思い、テントにいたカタリナに声をかけると、ジト目を向けられる。
「どうなるか楽しみとか言っていたのに、忘れていたんですね」
「あはは、ごめんごめん。で、どうなの? 畑を見た限りだと、すごそうなんだけど」
「見事に花が咲いて、もう種の収穫までできてますよ」
なんということだろう。
育ったどころか、もう次世代につながってるらしい。
そのことに驚きつつも、畑仕事で教わったことを伝えてみる。
「そういえば、何回も畑を見に行ったことはなかったですね……なるほど」
「動物にも適用出来たら危ない気もするけど、気にしてもしかたないわよね」
少なくとも、人間には同じことは起きていない。
そのことに安心するような、違いは何なのかと悩むような。
まだ知らないことがたくさんだなと感じつつ、しばらくの間集落で過ごすことにする。
時折、獣の柵への接近などはあるものの、平和な時間が過ぎていった。
ブリリヤントハートの調子も、そこそこ戻ってきたように思う。
途中、工房のような場所から持ってきた記憶媒体の解析を主に進めていた。
「行くのか?」
「ええ、そろそろね。教えてもらった場所は、一応見ながら行くわ。まずそうな相手なら、倒しておくから」
「ははっ、期待しておくよ」
そんなやり取りの後、テントを出た私たちは、子供たちに囲まれる。
引き止めだと思うけど、それぞれを撫でてやると、あっさりと頷いてくれた。
「また会える日を願ってて」
「うん、姉ちゃんも頑張ってね」
結局、私は男の子に戦う術を、女の子にはカタリナが集落でやれるあれこれを教える形だった。
普段戦いのことばかりなのに、カタリナが他のこともこなせるのを、改めて知る。
(片が付いたら、どこかでのんびりっていうのも、本当になりそうね)
そんなことを考えつつ、ブリリヤントハートに乗り込む。
見送りの面々に手を振りつつ、再び自然の中へ。
集落を離れてすぐ、風景は大自然だけになる。
「楽しかったですね」
「ほんと。あのぐらいの生活が一番楽しい気がするわ」
もっとも、当人たち……特に大人にとってはストレスのある生活だろう。
命の危機、家族を養う覚悟、そんな重圧。
私たちが、そんな荷物を少しでも減らせていたらいいのだが。
「きっとそうですよ。っと……目的地はすぐですね」
「まっすぐ行けば、ね」
機体の回復テストがてら、少し浮いてみたのだ。
せいぜいが木々の少し上という微妙な高度だけど……進む分には十分。
時折、鳥が驚いてすぐそばを飛んでいくのが申し訳ないぐらいだ。
「金属反応大!」
「あれは……」
森林を、川が切り裂いていた。
そんな川岸に、さび付いた色の船……のようなものが見えた。
そして、周囲をうろつく機械的な何か。
「降りてから襲撃をかけるわ。目標は稼働中の無人機、そして施設だろう船舶」
「了解!」
放置して、集落を襲わせるわけにはいかない。
そう感じながらの戦いが始まる。




