JAD-215「筆は選ぶ」
JAMはれっきとした兵器だ。
その性能自体は個体差が激しいけど、わかりやすいものが1つある。
それは、乗り心地だ。
普通の物ほど、激しく上下に揺れるカプセルの中にいるような状態だ。
「立ち止まったら、死んじゃうからね。ほらほらっ」
「わっ、ううっ! ゆ、ゆれっ」
集落の周囲にある荒地は、彼らの訓練場だった。
そこに、男の子2人を乗せて移動し、少し試している状態。
思った通り、開拓地にあったJAMは複数人乗りが可能だった。
実際に複数人で戦うというよりは、余剰空間が広いという意味でだ。
補助席のようなものが、後からくっつけられているのが丸わかりである。
「下とかを向かないで、外を見なさい。体の揺れと、視界の揺れが違うと酔いやすいわよ」
「そう言われても……」
最初は元気いっぱいだった男の子2人。
でも、数分もするとへろへろである。
私も最初は……いや、私はそうでもなかったかな?
すぐに、あれこれ動かしていたような気がする。
「仕方ないわね。一度止まって、射撃試験ね」
「撃つところ見たい!」
「僕も僕も!」
まだつらそうな表情なのに、攻撃となると元気が戻ってきたようだ。
さすが男の子……というか、子供らしいってとこかなあ?
内心苦笑しつつ、動力に意識を向ける。
ブリリヤントハートとは違う、別のJAM。
手ごたえというのか、そういうのは当然別物だ。
動力はルビー、低品質で、お手軽だったらしい。
その分、出力も私のこれまでの経験上、中の下かそのぐらい。
武装も、そう強いとは言えないけど……普通はこんなものかな?
「女の子たちはカタリナが面倒見てくれてるだろうし……あの辺でいっか」
JAMでもすぐにはどかすのが難しそうな岩が、いくつか点在している。
的代わりに、そこへ向けて火の槍を打ち出す。
目立った音が聞こえるわけでもないのだが、男の子たちには十分らしい。
すげーなんて声を聞きながら、2発ずつ打ち込んだ。
結果として、もう燃料が明らかに減っているのがわかる。
(少なくない? いや、でもこんなものか……)
成長した今はもとより、この世界で目覚めた直後のブリリヤントハートでも違う。
ブリリヤントハートが発掘品かそれと同程度と考えると無理もない。
その後も、ある程度試験したら戻ろう、そう考えた時。
森の方に、信号弾が上がった。
「何か知ってる?」
「う、うん。赤は緊急、救援求むだよ。信号弾は工場に生産ラインがあるんだ」
「姉ちゃん!」
思考、思考。そして決断。
ここで戻るのももどかしい。
第一、ブリリヤントハートはできるだけ休ませたい。
「カタリナ、聞こえる?」
『どうしました?ってノイズがひどいですね。そういうことですか』
「ええ。戻ったり降ろす方が問題だから、行くわ」
『了解です。すぐに周囲に声をかけますね』
短距離用の無線が通じて良かった。
男の子2人に頷きなおし、機体を森へと向かわせる。
愛機ではないし、色々もどかしいけど……うん。
燃料自体も、そう多くはないけどまだまだある。
支援ぐらいはできる、はず。
できるだけ視界の確保できる場所を選びながら進むと、振動が近づいてきた。
車両の走る音と、それ以外の音。
「左……いえ、正面ね。激しく動くかもしれないから、ちゃんと掴まってなさい」
言ってすぐ、視界に飛び込んでくる車両、そして大きな獣。
四つ足の……なんだろう? 馬に似てるけど……まあいい。
動力へと意識を向けて、出力をぎりぎりまで上げる。
そうでもしないと、思ったような攻撃が使えないのだ。
「獣ならこれでっ!」
ちょうど中間あたりに向けて、火の槍を連続発射。
消火も考えつつの攻撃は、下草をすぐに燃え上がらせる。
四つ足が慌てるのが見える。
獣が足を止めたところで、次はさらに威力を弱めて本体に発射。
殺すのが目的ではなく、逃げてもらうためだ。
狙い通り、獣たちは悲鳴を上げて逃げていく。
(危なかった……慣れは怖いわね)
やはり、機体も違えば補助もないと、厳しい。
攻撃方法を少し変えるだけでも、消耗やらなんやらが全く違う。
「殺さないの?」
「食べるためならそうするけど、今はそうじゃないものね。人間が好きにしていいわけじゃないのよ」
どこまでわかってくれるかは不明だけど、自分の考えを告げておく。
私が強いからこそ、手加減しても生きていけるからこその考えかもしれないけどね。
もっとも、この機体でやるのは少々厳しかったかもしれない。
「あの人たちに見覚えはある?」
「うん。父さんたちと同じように暮らしてる人たちだよ」
「無事でよかった。ありがとう、姉ちゃん!」
純粋な称賛にくすぐったさを感じながら、車両へと声をかけ、一緒に集落に戻るのことに。
戻りながら、燃料がほぼ尽きていたことに、やりすぎたかなと思ったりもするのだった。




