JAD-214「前線という環境」
「それでね、それでね」
「うんうん」
開拓中の集落に立ち寄る形になった私たち。
工場が発掘できたというのは本当で、こんな自然の中にも関わらず、防備はなかなかのもの。
資材はまだまだ残ったままだったそうで、車両の装甲板らを防壁にしているようだ。
なんだか、野戦地そのものといった感じで……にもかかわらず、子供たちは元気だった。
大人たちから、私たちへのお世話という仕事をもぎ取ってくるほどだ。
「お姉ちゃんは、安全な場所にいろって言わないんだね」
「うーん、他人だからと言ってしまうとそれまでだけどね。こんな場所じゃ、手が足りないのは事実でしょう? でも、下手に手数にするには、貴方たちは色々と足りないのも事実よね」
救出した形の4人の子供たち。男女2人ずつの、姉弟らしい。
苦労してそうな長女は、心配そうに私たちの会話を聞いている。
元気いっぱいに先ほどから話しかけてくるのは、今回飛び出した形の一番下の子だ。
「それは……そうなんだけど」
男の子が、ちびっていうからどうかなと思ったけど、そう年も離れていないようだ。
出会ったときは、たまたま恐怖に縮んでいただけだ。
(確かにこんな世界じゃ、何年も間を開けるぐらいなら、平和なうちに子供を増やす方が良いのかしら)
年の離れた姉弟というのは、上の子に下の子の面倒を見てもらうというメリットがある。
が、逆に言えば何かあった時に足手まといになりかねない赤子が長い期間いることになる。
もちろん、年の近い子供、はデメリットもあるわけだけど。
正解はない、そんな話だ。
「少なくとも、銃の扱いだけはちゃんと学んだ方がいいのかもね。前に出るのは私とかに任せなさい」
「はーい。お姉ちゃんがそういうなら……」
「レーテ、ずいぶんとなつかれてますね」
戻ってきたカタリナの顔には、笑み。
どうやら情報的にも収穫はあったようだ。
彼女の後ろからは、案内という役目をもぎ取った男の子2人。
どちらも、どこから支給されたのか戦闘用のベストを着込んでいる。
「当然よ。私はジュエリストだもの。憧れよね」
「は、はい。本当なら私も……いや、無理かなあ? JAMはあるんですけどね」
子供たちの視線にこたえるように、自信満々に答えてみた。
すると、予想外の反応が返ってくる。
長女は、意外と前向き……でもそもそも彼女も運転してたな。
それよりも、だ。
「JAMがあるの? 発掘品?」
「わっかんねえけど、すげえ燃やす奴」
「そうそう。森を開拓するときには便利だって言ってた」
男の子2人は、やはり興味があったようで話を聞けた。
最低でもルビーなどを使うタイプのようだ。
発掘品なら、部品取りにってそんなわけにもいかない。
「姉ちゃんのより小さいけど、見る?」
「そうね。お願いしようかしら」
私の言葉に、妙に笑顔になる子供たち。
長女も、一番下の子ですらだ。
役に立てそうというのがうれしいらしい。
「早く早く!」
「はいはい、しっかり案内してちょうだい」
腕を引っ張る勢いの子供たちに苦笑しつつ、与えられたテントを出る。
ほかの住居も似たようなもので、むしろ車両の中の方が快適そうなほどだ。
実際にそうしている住民もいるようであった。
「レーテ、簡単に確認してみましたけど、ここは備蓄的にかなり当たりですよ」
「そ……両親が見つけたのは、それらで対応したい相手、だったのかもね」
偶然か、必然か。
過去の因縁がよみがえってきたのか、新しいしがらみか。
意外と、答えはすぐに出そうな予感があった。
カタリナのささやくような報告を聞きつつ、先を行く子供たちを追いかける。
案内された先には、確かにJAMがあった。
都合、4機ほどはある立派なものだ。
デザインはどこかで見たことのある、シンプルな物。
おそらくは再生品、今の世界で作られたものだ。
コックピット付近は大きく、あれなら何人も乗っていられそうだ。
「レーテさん、あのJAMに興味が?」
「まあ、ジュエリストならね。見せてもらっても?」
「構いませんが……あなたの機体ほどでは」
子供たちの父親がたまたまいたため、話はある意味早かった。
と、子供たちの視線を感じ、足を止める。
「ついでにあの子たちにも見学させてもいいかしら?」
「いや、それは……」
「今度は車両じゃなく、JAMで飛び出すかもよ? まだ早いって覚えさせるのもありじゃない?」
少し意地悪なようだけど、車両と子供数名、JAMと子供数名、ではいざというときの犠牲が違いすぎる。
訓練しないとだめだとわからせるには、どこかで経験させるのが早い。
火に手をかざせばやけどする、と学ぶ機会は貴重だと思う。
「……わかりました。順番は任せます」
「ええ、安全第一にするわ。聞こえてたでしょう。まずは我慢できなそうな男2人から、やりましょ」
「「やったー!!」」
なんだかんだ、気になっていたんだろう。
私の言葉に、宝物を見つけたように男の子2人ははしゃぐのだった。




