JAD-213「手の届く範囲で」
「接触まで後10……8……」
「セット、アクアマリン」
まだこの先の戦いが、どういう状況かがわからない。
人同士かもしれないし、無人機同士かもしれない。
破壊より、氷漬けにするのがどの場合でも良さそうと思ったのだ。
スラスターを使い、ホバー移動をしながら森林を進む。
この辺りは、出力の低下と機体の成長がちょうど釣り合ってるようで、変化がない。
調子が戻ったら検証もしないとな、そう思いながら進み続け、見つけた。
子供たちが声を出すのを聞いて、探してる相手だと確信する。
「あれです!」
「了解っ!」
もともとなのか、彼らが作ったのかはわからないけど、森を切り裂く草原の道。
そこを、車両が複数台移動しながら戦闘中だ。
発砲先は、JAMっぽい見た目だけど……無人機かしらね?
「追ってくる方に攻撃、開始!」
子供たちにわかるように、声を出して発射。
敵機の横合いから青い光が襲い掛かる形で、凍結に成功。
正確には、前にいる機体に当たり、その後ろがぶつかったところでさらに凍結って感じ。
少しだけ、全部一度にやるには不安があったから、ね。
「あんたたち、外に聞こえるように呼び掛けてっ!」
「は、はいっ!」
少なくとも、知り合いの可能性は高いだろうと考えた。
そこで、外部スピーカーをオンにし、呼びかけてもらうことに。
その間に、人間側と敵機の間にブリリヤントハートを滑り込ませる。
人間側も、乱入者と状況の変化、そして声に止まってくれたようだ。
「カタリナ、コックピットから手を振らせてみて。落ちないようにフォローよろしく」
「わかりました。ええっと、じゃあ一番大きいから貴女で」
長女?らしい子を引き連れて、お腹横のコックピット入口へと移動してもらう。
開いたコックピットから入る風は、もうあまり冷たさを感じない物だった。
「向こうも車両から出てきましたよ」
「そ。ひとまず降ろすわ。こっちは相手にとどめを刺しておくから」
氷漬けから復帰してくる様子はないけど、念のためだ。
機体をしゃがませ、子供たちとカタリナには降りてもらう。
人間たちのもとへと走る5人を見つつ、氷漬けの敵機へ向き直り……ダイヤに切り替えて発射。
これでひとまずは安全だろう。
ライフルを手から離し、背中側にマウントしておく。
いらぬ警戒を抱かせてもいけないからね……。
(出力が上げたくても上がらない……休ませないといけないかなあ……)
どこかで、JAMを動かさない時間を作らないといけないかもしれない。
それはそれとして、今は自己紹介だ。
「こちらフリーのジュエリスト。森でその子たちをたまたま見つけたから、連れてきたのよ」
外にそれだけを告げて、私もコックピットから外へ。
当然、大人たちに見覚えはない……が、子供たちは2人の男女に抱き着いている。
彼らが両親で、両親を含めた10名弱の探索班ってところか。
こちらに気が付き、男親側が歩いてきた。
「まずは礼を言わせてほしい。助かった、ありがとう」
「偶然よ偶然。その子たちと出会わなければ、ね。しばらく戻ってこないから、心配になって飛び出してきてしまったと聞いたけど……」
どうなの?なんて視線を向ければ、苦虫をかみつぶしたような表情。
怒るべきか、心配かけたなとか言うべきか、悩んでる感じだ。
実際、大人たちは結構消耗している。
車両も傷だらけだし、あのままだと危なかっただろう。
「俺たちの集落は、車両生産工場を発掘した状態なんだ。軍用か、企業の私兵用でね。武器も一応生産可能だった。それを使って、周囲の探索と開拓をしていたんだが……厄介な場所を見つけてしまってな」
「どうにか逃げてきたってことね。手の届く範囲で頑張るのが基本よね。それでもくじ引きみたいなもんだけど」
なるほど、子供たちだけで車両を2台も使えた理由がわかった。
今の世界では、機械的な生産は難しい。
昔の工場の発掘、再生が主だ。
そう考えると、あのロマンを理解する工場主とかは天才ってことでもある。
「そういうことだな。助けてもらってなんだが、対価が払えるかどうか……」
「んー、その見つけた厄介な場所はどのあたり? 後でそっちからもらうわ」
その間、少しばかり集落で寝泊りさせてもらうけど、なんて加えておく。
ただ働きはしたくないが、十分な報酬をもらえるとも限らない。
きっちり払ってもらったら、集落が立ち行かなくなりました、はちょっとね……。
(お人よしが過ぎるって時もあるだろうけど、それは相手もわかってる)
「わかった。さっきの動きを見ても、腕のいいジュエリストみたいだな。改めて、本当に助かったよ」
「ええ、期待して頂戴」
謙遜するところでもないので、敢えて強気に。
そこに聞こえてくる、お姉ちゃんすごいんだよ!なんて声。
くすぐったく感じながら、彼らの先導に従って、集落へと向かうことに。
2回目の里帰りは、少し遅くなりそうだった。




