JAD-212「拾い物」
生き物は、案外しぶとい。
目覚めてからの私は、そのことを何度も味わっている。
それでも、誰もが強いわけでもない。
「滑り込みっ、状況!」
「左方向狼型っ! 右前は無人機っ!」
遭遇したどちらにも牽制の一撃を放つ。
直撃を狙っていないこちらの射撃は、土煙を上げ、木々を貫いた。
(この隙に……ようやく、雪のない場所に出たと思ったらこれか)
雪山を通り過ぎ、だんだんと前に見た覚えのある植生の土地へ。
そう、山脈地帯をどうにか超えたのだ。
あれ以来、人間の痕跡などには出会えず、大自然ばかり。
そんな景色に、変化があった。
一面の荒野、周囲の森林、あちこちの金属的な残骸、といったところ。
まだこちらは、回復していない土地が多いって状況だ。
遠くに煙が上がるのを見て、火事か人間がいるのかとそちらに向かい……。
戦闘に巻き込まれている人間を見つけ、救援に駆け付けたのだ。
「トパーズ! 壁を作るわ」
「了解! ええっと車両2は損傷、人員が4!」
ミュータント、無人機、それらとこちら側を遮るように石の壁。
調子はまだ戻ってないから、100メートルぐらいが限界か。
それでも視界は封じれたはずなので、大木の根元に倒れこんでいる人間へと振り返る。
「みんな手に乗って、早くっ!」
ライフルを構えていない左手を地面に降ろすようにし、4人に外部スピーカーで呼びかける。
よろよろとだが、動いた4人を見て内心驚いていた。
4人ともが、まだまだ子供というべき背格好だったからだ。
(親とははぐれた? それともこの子たちだけで?)
考える間にも、無事に4人が乗ったのを確認し、その場を離れる。
落ちないように、ゆっくりとだができるだけ急いで、だ。
しばらくして、開けた場所に出たので一度止める。
「カタリナ、警戒はよろしく。ちょっと話を聞いてくるわ」
「はい、もちろん。戦闘音は聞こえてきませんね……」
よろしくと告げて、コックピットから外へ。
当然、機体はしゃがみこませて左手は地面に降ろしてある。
こちらへの視線を感じつつ、彼ら……彼女らか?のもとへ。
「私はライフレーテ・ロマブナン、ジュエリストよ。探索で偶然、見つけたから介入したの」
「あ、あのっ! ありがとうございます。助けていただいて……」
一番年上っぽい子は、長髪のおとなしそうな女の子だった。
ちらりと見ると、男の子が2人、さらに幼い女の子が1人、だ。
みんな、先ほどまでの恐怖にか、震えている。
「いいのよ。できることをやるだけだわ。たまたま、本当に偶然よ。それで、どうしてあそこに4人でいたか聞いてもいい? 簡単にでいいわ。また来る前に離れたいし」
「なら俺が。姉ちゃん、ちびを見てやってよ」
姉弟なのか、そういう幼馴染というやつなのか。
元気そうな男の子が、事情を話してくれることになった。
彼らは、少し先にある集落の子供たちだという。
一部の親が、探索に出たきり戻っていない、と。
「だからって子供だけで車両の持ち出し、探索は無謀でしょう」
「だけどよ、ちびたちがこっそり飛び出しちゃったから、慌てて……」
なるほど、そういうことか。
長女っぽい子と、この男の子は自制していたけど、下2人はと。
道理で、もう1人の男の子は申し訳なさそうにしてるわけだ。
(こりゃ、この男の子も、一番下の子に泣かれそうになってとかそういうのだな?)
私には今、姉弟とかはいないけど、それらしい関係のやり取りを見た記憶はある。
ゲームとしての、なのがさみしいところだけど。
「いいわ。ひとまず貴方たちは集落に送る。さっきの車両も回収しておくわ。そしたら親御さんたちを探しに……爆発音っ!?」
「レーテっ! 無人機以外の機械反応あり! 人間が操作してるやつだと思います!」
瞬間、思考が走る。
リスクは高い、高いけど……心の平穏はそうしないと取り戻せないと感じた。
大変だけど、何とかして見せる!
「聞きなさい。助けに行くわ。だけど、このままあんたたちを置いていくわけにもいかない。狭いけど、中に入りなさい」
「わ、わかったよ」
「カタリナっ! 聞こえてたわね! コックピット内物資を次元収納へ、とにかく場所を作って」
了解の返事を聞きながら、子供たちを機内へと誘導する。
さすがに十分なスペースはなく、ぎゅうぎゅう詰めだ。
「変に触らないように、つかまってなさい」
ぎりぎり、操作部分だけは確保したけど、同じベッドでくっついているかのよう。
素早い操作も難しいだろうけど、そもそも高速戦闘は子供たちが耐えられないだろう。
さっきまで味わっていただろう恐怖や、車両移動時の衝撃といい勝負かな?
「頭をぶつけないように、しっかり捕まっててくださいね」
「う、うん」
すぐそばにほかの体温や息遣いを感じる戦闘は、初めてだ。
悪い気分ではない、と思いながら爆発の方向へと向かう。




