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JAD-211「時の棺桶」



「争ったような形跡はなし、と。どうせならという賭けには出なかったのかしら」


「そういうものは持ち込めなかったのかもしれませんね。見えた範囲では、残ってませんよ」


 そこそこ広く、さまざまなコンテナや物資が残されていた。

 暮らす分には問題なかったのかな?


 その代わりにというわけではないだろうけど、武器の類が全くない。

 疑問への答えは、室内にあったわけだ。


 コンテナのいくつかを覗き、少し後悔する。

 その中には、いくつものミイラ状態の遺体。

 20はいないだろう亡骸のそばに、注射器具や瓶が転がっている。


(備蓄倉庫であって、武器はその対象ではなかったってとこね)


 ぎりぎりまで、そういう状況ではなかったんだろうか?

 上は、本当に中継所や駐車スペースだったのかもしれない。


 例えばそう、山脈への移動時の休憩場所、みたいに。


「食われるぐらいなら自分たちで尊厳ある死をってことね」


「私にはよくわかりませんけど、食い散らかされるのは確かに嫌ですね」


 頷き、コンテナの蓋を戻す。

 ここはもう、彼らのお墓だ。 


「骨になってないってことは、クリーンな環境は維持されていたのね。空調や、掃除の機械が残ってるんじゃないかしら……いた。でも待機場所で止まったままか」


「こっちは電源切れですね。できるだけ頑張っていたんでしょうね」


 道理で外と比べてきれいな感じだったわけだ。


 残されたコンテナを確認していくと、一部の食料品はさすがに炭のようになっていた。

 密閉容器がほとんどのあたり、やはりここは定住場所ではなかったようだ。

 それらは無事っぽいが、食べる気にはならない。


 他に様々な機械の部品もあったが、やはり武器の類はない。

 採掘機材のようなものは、どうにか使うこともできただろうけど……まず勝てないだろう相手だったわけだ。


「端末は壊れてないわね。石の力で動くあたり、ありがたいというべきか、技術を依存しすぎというべきか」


「確かに、悩ましいところです。化石燃料でしたっけ? ああいうのや、電力だけだと起動は無理でしたね」


 発電所の類は、見当たらない。

 おそらく、上にあったか、非常用しかなかったか、というところだ。


 ともあれ、持ち込んだ石を使えるのはありがたい。

 端末を起こし、内部の記録を探る。


 幸い、私のわかる言語が使われている。

 つまりは、宇宙からの人類ではないということだ。


「あ、日記みたいなのが最新に残ってるわね。ふうん、山からの獣と、川からの……川? この辺にあったかしら」


「そのあたりは地形が変わってしまったんでしょうね」


 今となってはわからないことも多いけれど、襲撃を受けたのは間違いないようだ。

 不幸なことに、ここは通り道……だったようだ。


 逃げ込むことが出来たのはわずかな人員、しかも生身のまま。

 地上には戦力がほとんどいないときに、ミュータントたちが迫ってきたようだ。


 目的は、山のほう。

 なんのことはない、通りやすい場所を通っていたらぶつかった、それだけだ。


「なんで、か。理不尽だったでしょうね」


 音声記録も残っており、悲痛な声がいくつも残っていた。

 そして、数か月が過ぎても状況は好転しないことも。

 むしろ、ミュータントは山を攻めるのをあきらめたのか、地上に住み着いたそうだ。


(上で見たのはそれか……)


 救援として、出払っていた戦力が戻ってくることを期待していたに違いない。

 が、好転しないということはそういうことだ。


「そちらはそちらで被害を受けたか、逃げ込めてはいないとして見捨てられたか」


「そんなところでしょうね。どうも、一時期に……一斉に世界中でミュータントが暴れ始めたみたい」


 記録によると、そんな噂を聞いたが、本当だったとは、みたいなのが残っている。

 可能性としては、やはり隕石の中身だ。

 メテオブレイカーに迎撃されたか、突入時に崩壊したか。


 中身の、生物への遺伝子に関するあれこれとかが暴走でもしたのか。

 あるいは、星の……石の力が過剰的にミュータントに影響を与えたか。

 その両方……なんてこともあるかもしれない。


「可能性の1つだけどね。だから、前の文明が滅びたのね。どうにかこうにか、対策をというところで自然は異形の牙を向いてきた」


「乱戦でしかないですね。人間にとってはどちらも敵で、それは無人機やミュータントにとっても同じ」


 いびつに巨大化、増殖したミュータントは、一部だけが生き残る。

 無人機たちは、計画の修正を余儀なくされる。

 被害を受けた人類は、一部だけが生き残った。


 どの勢力も、ダメージを受けて、今に至る。


「それでも、私は人間の味方でいいわ。だって、その方が楽しく過ごせそうだもの」


「そんなこと言って……子供たちの笑顔や、美味しい物があるほうがいいっていえばいいんですよ」


「ま、そうなんだけどね」


 私は、自由だ。


 自由だからこそ、自分の決断とその責任を常に胸に。

 強気に、この世界を生き抜くのみだ。


「さ、行きましょか」


「そうですね。おやすみなさい、みなさん」


 コンテナのお墓を改めて巡り、手を合わせる。

 そして、扉付近のミイラも中へ運び、空きコンテナに埋葬するように入れる。


 扉をしっかりと閉め、気持ちを切り替えるように目を閉じた。


「私にも、魂ってあるのかしらね」


「さあ……あるんじゃないですか? 私と違って」


「カタリナにだってあるわ、きっと。私はそう信じてる」


 何かにすがるように彼女の手を握りつつ、地上へと進むのだった。



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