JAD-210「戦いはどこにでもあった」
太陽に照らされ、まばゆい雪景色の山脈。
そのふもと付近を大きく迂回しながらの旅。
生き物にはたくさん出会い、記録も取っている。
半ば予想通り、まったく回復していない荒地に、雪だけが積もっている場所も多い。
恐らく、この辺に砦があったり、戦いが激しかった場所なんだろう。
これが前の戦争などから復活できていない場所の現実だ。
そんな場所でも、生き物がいる形跡があるのだから、たくましいことだ。
「人間はこの辺にはいないようですね」
「一時的にはともかく、住み続けるのは難しい土地だわ」
天候、資源、そして何かに襲われる状況というのはなかなか厳しい。
今の私たちのように、一時的に通るならまだしも、ね。
隕石の迎撃により、一時的にブリリヤントハートは消耗している。
燃料としての石英、水晶結晶はまだ大丈夫。
問題は、石の力を受け止める機体の核、動力源だ。
(やっぱり、私たちだけだとまだ足りない、か)
蓄えておけるあれこれとか、そういうのが足りていない。
一発だけなら問題ないけど、全力戦闘にはまだ不安が残るようだ。
これまでの経験上、徐々に機体も強くなっていくだろうけどね。
「前方に金属反応大。どうしますか」
「一応見ていきましょう」
荒地ではなくなった場所は、石の力、自然が戻ってきている。
あるいは、そこまで激しい戦いが起きなかった場所だったということも。
そんなことを思いながら、とある森の中を探索する。
周囲と比べ、木々の生え方が独特だ。
崩壊した建物に絡みつくような、そんな生え方。
「ちょっとした基地の跡って感じね。そっちはどう?」
「砲台とか機銃台座らしきものは結構ありますね。どれもつぶされた感じです」
ということは、ここは大きめのミュータントに潰された場所、ということになる。
それを証明するように、いくつかの場所がまるで巣のように整えられていた。
その主は、もう骨となってしまっていたけれど。
機体につつかせると、思ったより硬いし、割れない。
ただの骨ではなく、ミュータントらしく成分も少し違うんだろう。
「環境に適応して生き残ったミュータントと、絶滅してしまったのとがいるようね」
「前に、異形として出会ったのはどっちなんでしょうね」
まるでホラー映像のような、異形だったミュータント。
あるいはあれは、もう限界だったのかもしれない。
結局、多くの土地でミュータントが闊歩している、とはなってないのが現実だ。
どこにいるかわからない、という点では人類が開拓するための敵なのだが。
「あれと共存は難しかったでしょうね。ん……私の知ってる限りだと、少しおかしい感じ」
残っている廃墟部分から推測すると、ここには壁と、迎撃装置しかない。
いわゆる建物がほとんどないのだ。
中継地点、駐車場みたいな役割があるとしたら合っているけど、どうだろうか。
というか、こういう場所なら……。
「地下をスキャン。地下室やそういうのないかしら」
「了解。んん? ちょっと通りが悪いですね。移動しながら試しましょう」
ある意味予想通りで、地中探査用の電波等が上手く効力を発揮していないようだ。
歩く程度の速度で移動しつつ、何度も確認。
その結果、なんとなく見えてくる。
「ありますね、地下。入り口はたぶんこの辺……だと思います」
「これだけ埋まってるとねえ。ええっと……ここね」
廃墟の中でも、一際がれきと植物が固まっている場所。
もしかしたら、人類がここを放棄する前にふさいだのかもしれない。
能力低下中の機体でも、多少は問題ない。
いくつかの力を切り替え、がれきと植物をどかしていく。
「目立った戦いが終わったら、どこかで開拓民になりましょうか。森を切り開くとか楽ですよ」
「ええ、そうね。それもいいかも。よし、地下への扉っと」
車両すらくぐれそうな、左右に横開きの扉が地面に落ちている、もといある。
本当ならクレーン等で操作するだろうそれを、ブリリヤントハートで行う。
片方の扉を慎重につかみ、ゆっくりと開いていく。
幸い、中から何か飛び出してくるということはなかった。
「機体……は無理ね。トラックも荷台ごとは無理そう。生身かー」
やろうと思えば、周囲の地面やらを無理やり広げることもできる。
ただ、それはちょっとロマンがないよねとも思う。
そういうことになった。
「準備して、突撃よ」
「レーテ、こういうの好きですよね」
まあね、なんて答えつつ、武器や道具を準備し、陽光注ぐ地下へと向かう。
スロープになっており、車両で行き来することが前提だっただろうと感じる構造だ。
しばらく歩いていくと、どんどんと地下へ。
途中、いくつかの障壁のようなものがあったが、突破。
手持ちの、石の力で刃を作るスターエンゲージソードを使ったのだ。
結構な音がするのだが、何もやってこないっていうことは……。
「遺跡としては死んでるようね」
「はい、警報装置や、警備のメカなんかももう……」
それらしい残骸はあるけど、それだけだ。
収穫があるか微妙な感じだけど、ここまで来たなら奥まで行こう。
再び何度目かの障壁突破作業。
そうしてたどり着いた場所は、やはり地下室。
地上での状況的に、そこそこ大きいはず。
でも……。
「逃げ込んだか、立てこもったか……かな?」
「電源が死んだか、脅威がまだ外にいることがわかっていて……」
地下室の入り口となる扉。
半分ほど開いたその扉に、ぼろきれをまとった形のミイラが数名、もたれかかっていた。




