JAD-209「感情をのせて」
人の手が届かない、白銀の世界。
空想が現実になったような存在、ドラゴンはそんな場所に住んでいた。
以前出会ったドラゴンたちのことも考えると、彼らは過酷な環境にいることが多い。
もしくは……そんな場所へと、追いやられてしまったのかもしれない。
「好きで住んでるなら、いいんだけどね」
「ドラゴンたちですか? あれだけ石の力を常用できるなら、その方が良いのかもしれませんね」
頷き、ゆっくりと雪山を降りていく。
もちろん、トラックではなくブリリヤントハートで滑るようにだ。
平地にたどり着いたら、トラックの予定。
「そうね。異形、巨体がいるとなれば……狩るのが人間、か」
自身、ゲームという中でそういう行為はしてきた。
企業の生み出した巨大兵器、あるいは強力な人型兵器。
そんな相手を、依頼として倒してきたのだ。
話が通じるだろう相手ですらそうなのだ。
ミュータントのように、交渉不能な相手となれば言うまでもない。
ドラゴンぐらいの相手となると、互いの消耗的には今回宣言したように共存はしていきたい。
(信じてくれそうな相手には、情報を流す方向でいきましょうかね)
ちなみに、雪山から降りながらも、カタリナには解析を続けてもらっている。
対象は、おそらく最初期の隕石と思われる中にあった、辞典のような情報の塊だ。
「解析の具合はどう?」
「それなりに、ですね。今と言葉が違うようで、目次の構造を先に調べて個別に確認中、です」
苦戦中のようだが、それでもわかったことはいくつかあるようだ。
その中の1つは、宇宙からの来訪者、人類のことだ。
「レーテも予感していたように、この星には人類として、後からやってきた勢力がいます。正確には、遺伝子情報から再生、人類として定着する……という目的の勢力ですね」
「なるほど……肉体そのものを運ぶのは、コスト的に微妙だったか……」
思い出すのは、種子等が保管されていた場所。
あんな感じで、軽い物はなんとか現物を、そうでないものは……というわけだ。
「ええ、そうです。でもそれより何百年も前に、先行して宇宙に旅立った勢力があります。それが、資源を母星に持ち帰る……打ち出して、ですけど。そんな無人の探索部隊です」
「それが無人機の勢力Aってとこね。人間を再生する目的のは……もしかして、私の大元かしら……」
宇宙は、間違いなく広い。
同じ時期に打ち出されたとしても、どこにいつたどり着くかは未知数だったはずだ。
そのうえ、一気に事故に合わないよう、ずらしてということもあっただろう。
最初と途中、そして終わりの方では考え方がずれているということもあったかもしれない。
「記録によると、結局資源が戻ってくることはほとんどなかったようで、それでも無駄ではないのならと計画が修正されていったようですね」
「なるほど、そういうことね。問題は、もともと人間相当の生き物がこの星にいたか、ね」
「そうですね。あと、石の力を使うための技術はこの人間たちでも、途中からだったようです。最初期は、かなりサバイバルな状態だったようで」
ずいぶんと気の長い話だけど、納得できる状況だ。
資源を打ち出す勢力、人間の再生と定着を目指す勢力、そしてそれらの亜種勢力。
たった1つの星に、偶然にか誘われてか、人間の関係者が集まってきたわけだ。
「案外、もともとの人間と、ほとんど変わらない生活をする方向に切り替わったのかもね」
「その可能性は十分にあるかと。もしかしたら、石の力を強く使えるジュエリストはその子孫かもしれません」
「ロマン、でいいのかしらね……うん」
まだ謎は残るけど、色んな事がわかってきた。
絡まった糸が、少しずつほぐれていくのを感じる。
そうなってくると、気が付くことがある。
「まだこの先、隕石がどれだけ来るかはわからないってことね」
「はい、その通りです。このデータからわかる情報だけでも、四桁分の計画が乗っていますよ」
多いのか少ないのか、なんとも言えない。
いつ空から来るかわからない存在に、どう対処したものか。
そんなことを考えていたからだろうか?
見上げた空に、反応がある。
「言ってるそばから……隕石だわ。複数」
「こちらでも確認しました。どうします? メテオブレイカーはこの前撃ったばかり。しかも複数です」
「決まってる。迎撃準備!」
すぐに装備を取り出し、超長距離射撃体勢に。
今度は、地表に落ちる前にやってみせる。
どれを狙うかと情報収集中に、太い光が空を薙ぐ。
メテオブレイカーからだろう一撃だ。
空を切り裂き、確かに隕石を消滅させる。
たまたま射線がかぶったであろう数個の隕石は消滅したようだ。
が、明確に2個ほど残っている。
「どうしますか?」
「1個目の後、すぐ2個目も狙う!」
無茶をしているのはわかっている。
けれど、地表で展開される前ならその方が良い。
「了解です。制御の補助はしますけど……」
「壊れなければそれでいい! チャージ開始。トリプルダイヤ、稼働!」
周囲の雪をとかすかのような勢いで、力が機体を駆け巡る。
チャージ完了と同時に、一発目。
足を地面にめり込ませながら、発射だ。
確認は難しいが、当たったという確信がある。
当てる、という感情が力に乗ったのだ。
「次っ!」
「再チャージ開始! 核への負荷増大! もう一発の後、しばらくはフル稼働は無理ですよ」
「上等っ!」
そして再びの照準合わせからの発射。
コックピット内部も、なんだかまぶしいような、熱いような。
その甲斐はあってか、二発目も見事に隕石に当たった模様。
空に平穏が戻ってくる。
少しばかり、無茶をしすぎたのかもしれない。
「状況確認……しばらくは、石の方は1つで弱めの運用になると思います」
「ちょうどいいわね。再び、里帰りでもしましょうか……」
アラートの表示を見ながら、平地へと向かう。




