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JAD-020「新しい刃」



「そうそう、上手よ。もう少し奥へ」


「こう? うーん、思ったより柔らかくて難しい」


 ハッチを開けたままのコックピットに、困惑の声が響く。

 約束通り、仕事の報酬としてトムにジュエルアーマードを触らせているのだ。


 彼に、操縦の才能があったのは、良い事なのか悪い事なのか、今はわからない。


(演習モードがあるのは、プレイヤーのJAMだからなのかな?)


 モニターに表示されているあれこれも、ややチープなのは勘違いしないためだろう。

 それでも、練習として十分だと思うのは、スロットルや各種レバーの手ごたえは本物だからだ。


「基本的には、JAMの操作自体は難しくないように設計されているわ。何故だかわかる?」


「え? 誰でも使えるように、かな? ほら、うまい人だけしか動かせないと戦えないもん」


 なかなか鋭い答えだ。

 熟練を必要とするものは、強くても運用面で問題が出ることがある。

 それ自体は正しいのだけど、今回は少し違う。


「残念。車両でも、航空機でもなく、ただ動く箱だったからよ。手足はおまけなの。JAMのご先祖様は、コンテナに推進力を取り付けた無人輸送機だったのよ」


「え、それじゃどうやって動かしてたの?」


 それには答えず、無言で上を指さした。

 もちろん、コックピットの中の上側というオチではない。


 もっと上、空の上……。


「最初は海の上。浮き輪のようなものを付けた状態。そして、宇宙、星の空。今は厳しいけど、昔はそんな場所の輸送に使われたらしいの。なにせ、宇宙にも鉱石はたくさんあって、どれも燃料に使えたのだから」


 これは私のゲームとしての知識、地球で生きていたらしい知識も含まれている。

 宇宙までは、既存のブースター等で射出、そこからは現地調達だったそうだ。

 実際、酸素も不要、高出力を必要としなければ無人でも動かせたらしいからね。


 一番のポイントは、少量の燃料用鉱石で十分な推進力が得られたことだろうか。


「よくわからないや。俺、他の大陸に行ったこともないし」


「ま、そうよね。続けましょ」


 そうして再開したJAMの操作練習だけど、トムは優秀だと思う。

 戦闘はともかく、物資輸送などのために動かすのは十分できそう。

 これも、宝石の力を、本質を見抜く力のおかげだろうか。


「これで終わり?」


「ええ、そうよ。どうだった、カタリナ」


「初期課程が5段評価で4、ほぼ満点ですね。まあ、欠点はまだ体格が……」


 そんな彼女の言葉に、ちょっと落ち込んだ様子のトム少年。

 悔しそうな、恥ずかしそうな顔に、微笑みながら手を添える。


「っ、お姉さん?」


「焦らないの。大人には大人の、子供には子供の、それこそおじいちゃんおばあちゃんにだって、それぞれの役目があるのよ。私のためにも、まだ子供でいてちょうだい」


 男の子に、こういう言い方は卑怯だと自分自身がよくわかっている。

 自分だったらどう思うかを考え、どう告げれば無茶をしないでいられるか、考えたのだ。


「でも……うん、わかった。カインさんに聞いて、やるように言われたことをしっかりやってく」


「そう、いい子ね。お母さんたちも安心できるんじゃないかな」


 そう告げれば、はっとなって気が付いてくれるトム。

 うん、やっぱりいい子だ。稼げるし、目立つJAM操者……ジュエリスト。

 でも命の危険度では、段違いなのだとわかってくれたのだ。


「さ、良い時間よ。お店に戻りなさい」


「うん。またね」


 元気に駆け抜けるトムを見送りながら、一人またコックピットに戻った。

 いくつかのボタンを操作し、自分の、時間だ。


 表示されるものも、チープな絵だけでなく、無数のグラフ、文字列。

 ブリリヤントハートの、調整モードだ。


「稼働時間は……ようやく規定値をクリア、か。金食い虫もいいところよね。なのに、一定以上動かしてないと、制限が解除できないなんて何考えてるのかしら」


「その分、やれることは増えるようですね」


 頷きつつ、調整を開始。

 ゲームで言えば実績解除、一定数プレイしたら、クエストをクリアしたら、とかそんなもの。

 なぜか、この世界でもそれに近いものが設定されている。


 問題は、他のJAMでそんな話を聞いたことがないということだった。


「ブースター出力の向上、背面ブースター増設可能? 飛行用かしら。そして、ジェネレータの大型化……か。2つまで運用可能、ふむ……」


 基本、JAMのジェネレータでの宝石運用は1種類、1つだ。

 工場なんかで使っている動力は、衝撃に弱い等弱点もある。

 要は、戦闘行動に耐えられる構造だと制限が増える。


 それが、1つ開放されるということ。


「面白いじゃない。相反しそうなやつでも、行けるのかしらね」


「データ上は問題ないようですけど……一般的には存在しませんからね。運用が難しいですよ」


 そう、ほとんどのJAMはこの制限を解放できない。

 正確には、そんな余力がないというべきだろうか。

 今、作られている機体では2つ以上の宝石の力に耐えられない。


 その点、ブリリヤントハートはまだ進化する。


 ジェネレータから引き出す、宝石の、星の力。

 それが長く通るほど、JAMの全身へと力を伝える箇所は強化される。

 配管、ケーブル、配線の類が慣れていくのだ。


 それはまるで脳みそのシナプス、その繋がりが強化されていくような……。


「陸上戦艦をぶった切るようなことはしたくないけど、想定だけはしておこうかなあ……」


「噂の中央軍に喧嘩でも売る気ですか?」


 そうなっても生き残るつもり、そんなことを呟けば、カタリナもあきれ顔だ。

 私としても、単身で軍にぶつかりたくはない。

 けれども、例えばカタリナとブリリヤントハートを差し出せと言われれば……。


 考えるだけはタダというやつである。


「そんなつもりは無いわよ。さすがに街中でダブルを試すのは厳しいわね。というか、そろそろ他の街にいってもいいのだけど……」


「もう少し稼いでおきたいところ、ですね?」


「トラック改修でお金が減ったからね。とはいえ、そうそういい仕事も……」


 カインあたりに、ちょっと聞いてみようかと思った時だ。

 街中に警報が鳴り響く。


「信号受信。砂嵐です」


「街中で? 久しぶりね」


 集落はなんだかんだと、砂嵐に遠い場所が選ばれる。

 もっと言えば、砂嵐が頻繁に来るようでは集落は消えるのだ。

 自然と、栄えてる場所には砂嵐が来ないことが逆に証明される。


 もっとも、こうやってゼロではないのだけど。


「ジェネレータ出力上昇。シールド、展開します」


「よろしく。ついでだし、まとめて包んでおいて」


 泊まっている宿、そして駐車場を一緒に包む。

 他の客は、そのことに最初は驚いたようだけど、私の方を見て手をあげて喜んでいる。

 宿は……着替えや掃除にお金がもらえなくてってなるかな?


「面倒なことがないってことで、おあいこにしてもらいましょっと」


 今から外に出る気にもなれず、そのままブリリヤントハートの中で砂嵐が過ぎるのを待つのだった。



 

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