JAD-208「人と竜」
「カタリナ、探れる?」
「うーん、どうも探査の通りが悪いですね。石の力が渦巻いてるのか、なかなか」
「やっぱりそうか……」
ドラゴンがこちらを誘うように飛んだ先。
そこは、雪に覆われた森の奥にある岩山だった。
こちらに来る時に超えた山脈の一部……だと思う。
そんな岩山の上を、ドラゴンはゆっくりと飛んでいく。
「またこちらを見ましたね。降りるみたいです」
「さあて、何が出るやら」
まさかのお誘いであるからには、ついていかない選択肢はない。
こういうのは、ロマンってやつよね。
ドラゴンの後ろをゆっくりとついていくと、白と緑ばかりの中にぽっかりと黒。
洞穴というか、切れ目というか。
問題は、ドラゴンですら容易に通れる大きさということ。
(つまり、JAMでも通れる……けど)
「中に入ったら、降りるわ」
「……了解。武器はどうしますか」
最小限、私はブレードだけと答える。
少し、納得いってない様子だけど……私のカンが正しければ、重武装は誤解を招く。
入口付近で停止し、コックピットを出る。
とたん、寒さが体を襲う。
「ずいぶん冷えるわね。これも石のせいかしら……」
ドラゴンと出会った場所も、寒いは寒い。
けれど、ここは輪をかけて寒い。
おそらく、普通の動物が暮らすには向かない場所だ。
「待っててくれたのね」
ドラゴンは、そんな私たちを待つかのように首だけをこちらに向けていた。
歩き出す私の後ろを、カタリナは静かについてくる。
主役が、私と目の前の成体だろうドラゴンと感じているのだ。
そんなカタリナを背後にかばう形で、ドラゴンに挨拶、そしてついていく。
巨体が歩いているのに、なぜかそう揺れないし、音も少ない。
(普段から石の力を使っているってことね)
発見ばかりの時間は、すぐに終わった。
視界に、別のとんでもないものを見つけたからだ。
「ドラゴンの……幼体」
そう、子供たちだ。
全身は白銀のうろこのようなもので覆われている。
ところどころグレーなのは、雪に溶け込むためか。
彼ら?彼女ら?は何かを食べている。
一体何をと目を凝らしたところで、気が付いた。
「カタリナ、あれ……虹色の結晶だわ」
「ええ、つまり……どういうことですか?」
私たちの会話が聞こえたのか、幼竜たちが顔を上げ、振り向いた。
叫ばれるか、と思いきや、静かなものだ。
気が付けば、成竜から何か気配が漂っていたのだ。
おそらく、親が何も言わないなら大丈夫、という状態。
逆に言うと、それだけの理性、教育のようなものがあるということ。
(その理由はきっと……)
「あなた、人間……ううん。星の生き物の記憶を、あれから学んでるのね?」
「レーテ!? まさかっ!」
カタリナの驚愕の声に、しっかりと頷く。
私も、まだ半信半疑といえばそうなのだけど、そうとしかいえない。
ドラゴンは、虹色の結晶を食べ、力を取り込むと同時に……あの記憶たちを取り込んでいる。
結果、人間やその他の生き物、それらを直接学んでいるのだ。
「そのまさかね。ミュータントが隕石の落下、あるいは人間の技術流出によるものと思っていたけど、どっちも正しくて間違いなのかも。少なくともドラゴンは……」
石、星の力を蓄え、それを扱う者。
おそらく、ドラゴンはもっと人間に都合のいい存在として設計されたのだ。
数ある家畜のように。
でも、そうはならなかった。
偶然か、ある意味での必然か。
多くの人間がいない場所で、ドラゴンは進化したわけだ。
「描かれていたのは、空想としてのドラゴン。そしてドラゴンたちはその記憶を学んでしまった」
「人間が思い描いたドラゴンに、なってしまったんですね」
たぶん、そういうことだと思う。
そうしてドラゴンが変わる間に、人間は滅びかけた。
後からきた無人機たち、そしてミュータントたち。
それらが、牙をむいたわけだ。
そしてそのいくつかは、人間が激減したことで……滅びた。
(先にこの星で人間が産まれたのか、人間がいなかったのか、はたまた混ざったのか……)
現状だと、先に石の力を使わない文明が発達し、そこに隕石が落ちてきて石の力を……。
でも、これはゲームとしての記憶での設定だ。
正しいのかはわからない。
石の力を使ってない時代の人間が先に来たか、石の力を使う人間が別口から来たか。
案外、その両方かもしれない。
といっても、だからといって今が変わるわけじゃないから、意味のない話だ。
そんなことを考えていると、成竜に促されたのか、幼竜が近づいてきた。
その口には、青い塊。
「くれるの?」
問いかけると、うなずきと同時にその塊が零れ落ちた。
ゆっくり拾い上げると、それは……。
「ブルーダイヤの原石……」
カットし、磨く前からわかるその輝きと力。
ドラゴンの意図は、正直わからない。
けれど、下手な使い方はしないと覚悟が決まる。
「ありがとう。静かに暮らせるといいわね」
そんなつぶやきに、返事代わりの声が返ってくるのだった。




