JAD-206「静かな自然の中で」
「静かですね」
「まあね。もともとはどうだったかわからないけど……獣も近づいてこないし」
もうすぐ日が暮れる森林。
適当な岩山の裏で、キャンプだ。
寝るときは、トラックの中の予定。
焚火が照らすのは、雪交じりの風景。
ここだけ見ると、とても同じ星とは思えない空間だ。
そばには寄ってこないけれど、獣の気配は多く感じる。
「砂漠でもなく、荒野でもなく、廃墟でもなく……」
「人が多いのも、それはそれでいいんですけどね」
頷き、薪代わりの枝を焚火に突っ込む。
少し強くなった火力が、熱を伝えてくる。
そんな些細なことでも、自分が生きている人間だと感じさせる。
「ここに来るまで、無人機の拠点らしき場所は数か所、潰せたし……メテオブレイカーからの依頼は達成したかしらね?」
「先輩も、最後まで付き合ってほしいとは言ってませんね」
メテオブレイカーの依頼は、この土地での戦争、争いに介入する気はないか、という物だった。
その点でいえば、介入はしたし、天秤を傾けなおすことができたと思う。
私は私で、自分のことを目的にしても良い頃合いだ。
「どうします? 山を越えてから南下していきますか?」
「それでもいいんだけどね。記憶媒体の解析もしながらにしたいし……」
今いる場所は、無人機たちの乱戦があった場所からずっと東。
大陸を東西にわける巨大山脈の少し手前といったところだ。
このまま、自然あふれる中を南下していく……のが面白い気がする。
「わかりました。補給もしていきたいですし、ちょうどいいですね」
カタリナの言う通りで、自然が復活している場所ということは、地面の中も期待できるということだ。
もちろん、鉱物の類はすでに掘られた後ということもあるが、この辺りは無事だと思う。
(少なくとも、力の流れは十分にあるわね)
この辺りが、無人機たちがやってきたことがあるのかはわからない。
環境が維持されていたのか、ゴーレム的なあれこれで復活したのかも。
せっかくなので、と狩猟で手に入れた肉をありがたくいただき、夜を車内で過ごす。
どこかで、狼か何かの遠吠えが聞こえる。
「案外、無人機たちの直接の勢力下……住めない場所って少ないのかしら?」
「そう、かもしれませんね。でも、不定期に襲われる可能性がある土地は、住めませんよ」
確かにそうだ。
1年は無事でも、その先が、となればとても住み続けることはできない。
あるいは、資源のあれこれのために、日々変動している可能性だってある。
「全部倒さないと、いつか増えて元の通り……は嫌ね」
そんな小さなつぶやきにも、カタリナは返事をしてくれた。
ほほ笑みつつ、朝を待つように眠る。
アラームで飛び起き、薄暗い車内を見渡した。
「状況っ!」
「展開していたセンサーに反応! ある程度以上の石の力を持つ存在が近くにいます」
寝起きすぐだけど、体は動く自覚がある。
これも、ちょっと普通じゃないような気はするけど……鍛えられているということで。
「こっちは見つかって……なさそうね」
「はい。それらしい動きはありません。対象は……空です」
視界を、普通の物から、石の力の流れも見えるものに。
とたん、まだ暗い空に光の流れが。
「あれは……竜、ドラゴンか……」
空の暗さ、夜明けが近い空の濃い青、そんな体表の存在がいる。
優雅に飛ぶ姿は、まさに超常存在。
果たして、自然に生まれたのか、遺伝子操作やその類で生まれてしまったのか。
はっきりしてるのは、子供は多くないということだ。
もし多いなら、地上や空は彼らに制圧されている。
「あのドラゴンたち、何を食べてるんでしょうね」
「肉とか植物だけ、ではないと思うけどねえ……あ、降りるみたい」
なんと、観察できる距離に降りてきた。
距離があるけど、そう遠いとも言いにくいぐらい。
そこには、昼間に水晶を採取した山肌がある。
寝床にでもするのかな?と思った時だ。
「食べた……岩ごと!?」
「驚き……ですね」
食事のためかはわからないが、2人が見つめる先で、ドラゴンは地面を食べ始める。
その口元から、破片がこぼれ、夜に光るのだった。




