JAD-205「都合のいい場所」
私には、過去の記憶がある。
ゲームをプレイしていた、という認識だった記憶。
とある記憶は……ビルが立ち並ぶ、かなり高度な文明が反映していた世界。
こちらは大雑把なもので、設定上でしか知らないようなものが多い。
主な記憶は、そんな文明が何かで崩壊した世界を旅するものだ。
残った企業の私兵になるもよし、自由にどこまでも旅するも良し。
かなりやりこんだ……という記憶だ。
そんな記憶にはゲームとしての都合だろうけども、現実にはあり得ないものがある。
そのうちの1つが、メニューからカスタマイズ、工房を選んだ時の移動だ。
どこにいてもその画面では、どこかの建物の中、ガレージを背景としたものに変わる。
(そう、今目の前にあるような……)
考えてみれば、部品の組み換えなども、ゲームとしてはすぐだったが実際には作業がいる。
おそらく、視界内を動いている無人機たちが、その役目を追っていたんだろう。
「信じがたいですけど、嘘ってわけでもないですもんね」
「ええ、私も当てはめてるだけかもしれない」
人間、パニックになったりすると、そうして都合よく理由付けをすることがあると知っている。
知っているのだけれど……やはり、そうではないようだ。
「ダメね、認めないと。おそらくはここがベースなのね。私が記憶してるゲームとしての設定は……」
「それで、どうします?」
「どうするもなにも……どうしましょうね? ひとまず、何か持って帰って意味のあるものがあるか……」
適当な物資を持ち帰るのは微妙だ。
そう思いながら、ガレージ内部を探索。
結果、何かが記憶からよみがえってきた。
それは、ゲームの記憶でも時々お世話になったものだ。
「確かこの辺りに……あった!」
「記憶媒体、ですか」
そう、辞典が入った記憶媒体だ。
ゲーム中、わからない用語なんかを確かめることができる辞典。
記憶から、操作時にどこが動いていたかを思い出したのだ。
おそらく、これは隕石の中にある施設では、みんな共通しているものだ。
どの隕石がたどり着いても、同じことができるようにと。
つまり、ブリリヤントハートは、ベースとしては星の外の技術……ということになる。
「発掘品のJAMが、戦力的に大きく違うのはこのせいね」
「驚きの発見ばかりですよ、本当に」
それには自分も同意しかない。
ひとまず、これでここを探索する理由はだいぶなくなった。
あとは、ここを含めて破壊していくかだけど……よし。
「多少壊すけど、破壊しきることはしないわ。ここが本拠地、という状態のほうが対処しやすいもの」
「確かに、世界に散らばってもらっても困りますね」
「そういうこと。しばらくの間は、ここの回復に努めてもらいましょ」
言うが早いか、適当にガレージ内部へと力を放った。
火の手が上がるのを感じながら、本来の出入り口から飛び出す。
それは記憶にあるとおり、ゲームでガレージのメニューを閉じるときと同じ動きだった。
「無人機多数戦闘中!」
「見ればわかるわっ!」
2色の無人機が、乱戦になっている。
そこに飛び出たブリリヤントハート。
地上では囲まれると判断し、飛翔する。
そこに、どちらも何かを感じたのか、射撃が襲い掛かってきた。
「今さら、遅いっ!」
こうなっては、片方だけ消耗してるのはよろしくない。
どちらの無人機にも分け隔てなく、攻撃を叩き込むことにした。
見える範囲で、無数の無人機たちが争っている。
「離脱分のエネルギーは確保したうえで、できるだけ削るっ!」
「了解っ! 制御の補助、集中します」
なにせ、ロックしてる暇があれば撃て、といったぐらいの敵の数だ。
いうなれば、敵の巣窟に突っ込んだようなもの。
建物を飛び移りながら、延々と射撃を繰り返す。
無人機たちも、互いに争いつつ、私の方にも攻撃をしかけてくる。
結果として、周囲には無人機たちの攻防と、壊れる音が響き渡る。
「きりがありませんよ!」
「承知の上よ」
どちらも消耗が激しいほど、この場所の回復も遅くなる。
自然環境には申し訳ないが、時間稼ぎをさせてもらおう。
すなわち、人類が勢力を伸ばし、戦力を整えていくための時間をね。
そうして、体感的には長い時間を過ごす。
残骸なのか、動いてないだけなのか、無事な無人機なのか。
区別がつかないほどに、周囲には無人機たちがあふれていた。
「そろそろ撤退ね。一気に上昇! 東の山脈目指して飛ぶわ!」
言葉通りに、無人機たちの射撃が届かないような高度まで上昇し、向きを変えた。
あとは、風に任せてゆっくりと下降しつつ、東の山脈へと移動開始だ。
「仕事だったら、赤字も赤字ですよ」
「まあね。でも、情報は得られたわ」
こちら側で、追い詰められかけていた人類も、また盛り返すことだろう。
倒し方というか、攻略の方法を得たことで、地域の開放も進む。
そうしていけば、対応力も上がっていくわけだ。
「……もう一回、生まれた場所を探索した方がよさそうね」
「無駄足かもしれませんよ?」
それもまた一興。
私は自由に、強気に生きていけばいいのだから。
移動中は、記憶媒体の解析を進めることとしよう。
そう思い、高度を下げていくのだった。




