JAD-203「稼ぎ放題も良し悪し」
「無人機はあまりこちらに来ませんね」
「優先順位が変わらないのか、変えられないのか……」
実のところ、戦闘中は指揮官機がいる気配はしたのだ。
そうでなければ、こちらに向かってくる動きが変わることもない。
けれど、郊外に出るこちらを追ってくる無人機はほとんどいない。
命令が間に合わず、反射的にやってきた個体、そんな感じだ。
その代わりと言ってはなんだけど……。
「機械アリはこっちに気が付いたって状態ね」
郊外で、今は機械アリを相手にしている。
無数とも思える数を、延々と撃っているのだ。
凍り付かせるのを優先しているから、すでに動いていない相手の方が多い。
それでも、隙間を縫うように来たり、乗り越えてきたりとなかなか激しい。
凍り付いた機械アリたちの間を駆け抜け、場所を確保。
そうしてまた……というのを繰り返す。
「無人機たちの攻防がどちらかに傾くとやりやすいのだけどね。やっぱり、ほぼ同型だからかしらね?」
「だと思いますよ。設計思想は同じに見えます。送り出した側の考えが違うんでしょうね」
すなわち、資源を母星に打ち出す側と、この星を第二の母星としようとする側。
機械アリは、どの勢力が設計したのか……もしかしたら、人間が設計したのではないのかもしれない。
突拍子もない話かもしれないけど、その可能性もあると感じたのだ。
「女王個体は見つかった?」
「今のところは……でも、いると思いますよ。妙に戦力が多いですし、戦力の濃淡も感じます」
「そうよね……よし、一回飛ぶわ。面で攻撃を仕掛ける。女王個体をかばうと思う」
決めたなら動きは早い方が良い。
機体を飛翔させ、上空に。
地面を見下ろせば、いまだにうじゃうじゃとうごめく機械アリ。
「今度は……そのまま倒す!」
凍り付かせるのを一時やめ、撃ち抜くことにした。
何度目かの無数のネオン光な弾丸。
絨毯のようにあふれる機械アリたちを、そうして射撃してくことしばらく。
ついに、反応があった。
「集合を確認、おそらくそこに!」
「了解っ! 一気にたたっきる!」
防御のためだろう。
一部の機械アリが、急に集まりだしたのがモニターに映る。
そこへと、急降下しつつブレードを握る。
ブレードと言っても、石の力を使えばその刀身は優に10メートルに迫る。
「本当にアリそのものみたいな動きね。でも、ここで終わりっ!」
一際大きな機械アリが、他のアリに囲まれていた。
それで見えなかったのだと納得の気持ちが湧く。
相手の手足や触角めいた部分が動くのもわかる距離で、刃を振りぬいた。
あっさりと、それは推定女王個体を切り裂く。
「機械アリたちの行動変化を確認! 混乱しています」
「こっちでも確認取れたわ。じゃ、無人機たちの相手に戻りましょ」
3つの勢力のうち、1つはめどがついたと思う。
機械アリが何を狙っていたかはまだわからないけど……たぶん、それも解決する。
いまだに拮抗する無人機同士の戦いを見ていれば、なんとなくね。
おそらく、ここにいる無人機たちが集めた資源の中に、あの虹色の結晶がある。
(いうなれば、星の記憶、星に住まうものの記憶……それが結晶、星の力そのものだわ」
極論としては、星に生き物がいない状態では石の力は存在しなかったに違いない。
長い年月を経て、生き物が産まれ、死に、あるいは滅び。
それを繰り返すうちに、星に力の流れが産まれたのだ。
「生きるのを邪魔されないのなら、その方が良い……そういうことね」
「レーテ?」
私自身を設計したであろう科学者のことは何もわからない。
ほかにも似たような存在がどこかに生きてるのかもしれない。
ただ、今ここにいるのは私だけだ。
「ううん。何でもない。ちょっと考えをまとめただけ。赤い方の無人機を片付けていくわ」
防衛、攻められている側の無人機に狙いを定める。
地上にあれば、取り返すことができる。
宇宙には、逃がさないということだ。
先ほどのように、あちこちの水晶倉庫を拝借し、力を使う。
あまり長引かせたくはないところだ。
たとえ、敵が多くてスコアが稼ぎ放題だとしても、良し悪しの問題。
「あまり派手にやると、この辺の力が枯渇しちゃうから……ね」
「今さらといえば今さらですよね? 無人機たちもなぜか使ってますし」
そういえば、その通りだ。
どうにかしてか、無人機たちも火薬的な武器ではなく、石の力だろう攻撃を放っている。
光る刃、爪、弾丸、そんなタイプ。
でも、カタリナでさえ、私が仲介する状態じゃないと使えないのだ。
無人機たちが使うには……別の条件が必要だ。
「生体部品……あるいは、生体として認識させられる部品、か」
言ってしまえば、生き物はそういう有機物で肉体が作られているだけとも言える。
であれば、機械の体でも設計によっては生体と同じことが可能ではないか。
いつだったか入手したかつての文明の資料。
その中にはそんな話もあった気がする。
「考えるのは後ってことで。さあ、ひたすら倒す時間よ!」
「根性勝負ですねっ!」
覚悟を決め、射撃を続けるのだった。




