JAD-202「火薬庫で踊る」
「メインをアパタイト、アクアマリンとダイヤをサブに」
「全部を相手にするんですか?」
「まさか。でも、数が必要だろうなとは思うわ」
山を駆け下りながら、倒れた塔へと向かうべく進む。
移動はホバーのようにわずかに浮いたまま。
(混乱してるのは防衛側だけ、か……)
遠くの景色をズームする限りでは、無人機たちは争ったままだ。
遠くからの射撃に、攻めている側が動きを変える様子はない。
「やっぱり……あいつら、JAMみたいな存在を想定していないんだわ」
設計段階からそうなのかはわからない。
けれど、少なくとも有人機としてのJAMは考えられていない。
自分たちを脅かすのは、最高でも自分たちと同じ存在、そんな感じだ。
だからこそ、彼らが持っていない長距離射撃を、優先的に対処する脅威と考えていない。
災害に遭遇したようなものだろうか。
「わかりやすい機械アリを先に狙うわ。それに、試したいこともある」
「了解です。できる範囲で、色付けをしますね」
返事からすぐ、モニターに映る動くものたちが3色に分かれた。
赤い防衛側の無人機、緑の攻め手側の無人機。そして黄色い機械アリだ。
大体1キロを切ったあたりで、射撃を開始する。
「足とかを欠損させれば、それで十分っ!」
なにせ、相手は数が多い。
大地が1から2、敵が残りといったぐらい。
撃てば撃っただけ当たるし、動きが止まった相手は後続に潰される。
残骸が邪魔をして、後続の動きも鈍るといった狙いだ。
「このまま手薄なところから敷地に突入ね」
人のいない街のような場所。
建物らしきものはたくさんあるけど、どこか違う。
すぐにその違和感の正体に気が付く。
ここは……。
「人が住む場所じゃないですよね、これ」
「ええ、どう見ても無人機たちの作業場でしかないわ」
どこか人の住む建物に似ていたのは、無人機の設計者たちの問題か。
だけど、扉もサイズが変だし、そもそも住むための建物じゃない。
何かを保管するための場所だけでしかないのだ。
「敵機から誘導用照射を確認!」
「振り切るっ!」
レーザーか、別の何かか。
ブリリヤントハートに何かが照射されたようだ。
すぐに移動し、建物を壁にしていわゆるロックオン状態を解除。
だというのに、無人機からの攻撃が建物を崩壊させる。
「また建て直せばいいとでも? まったく……」
言いながらも、無数のネオン光の弾丸を放つ。
それらはどんどん無人機に当たり……凍り付かせる。
アパタイトの散弾、誘導性能とアクアマリンの冷凍能力を合体させたのだ。
先日の戦い、そしていくつもの出会いから、確信めいたものを私は得ていた。
すなわち、複数の宝石を運用しての力は、竜騎兵への道だと。
トリプルダイヤでの戦闘行動で、それは確かなものになった。
腕輪が光り、その感覚を確かなものにする。
「この星の物は、この星で生きる存在のためにあるのよっ!」
叫びながらも、なかなかあいまいな答えだなと心の中でつぶやく。
この星で誕生した、とは言わなかったのだ。
この星で生き物が進化し、人間が産まれたのか、宇宙からの来訪者の子孫なのか。
それは今のところ、はっきりしていない。
あるいは、両方かもしれない。
どちらにせよ、宇宙のどこか、誰かに渡すのは好ましくない。
「だから、それはつぶさせてもらうわ」
見つめる先には、無人機たちが陣取る建物。
外からの無人機や機械アリも、そこに向かっているあたり、そういうことだろう。
どう攻めるか、考えつつ動く相手をひたすらに攻撃し続ける。
そんな中、とある建物を壊すと、その中には無数の水晶結晶。
打ち上げるつもりなのか、倉庫として維持や開発に使うつもりだったのか。
わからないけど、使わせてもらおう。
ブリリヤントハートを水晶たちのど真ん中に置き、ライフルに集中。
迫りくる2色の無人機たち。
どちらかというと、動く敵対者だから攻めてきた、そんな集まり方。
「機械アリの増援が来るまでは後20」
「その前に結構撃てるわね。なにせここ、火薬庫みたいなもんだもの」
言いながら、クリスタルジェネレータをフル稼働。
燃料としての力は、機体の保管場所からではなく、周囲の水晶たちから。
周囲の水晶から、透明な糸のように力が集まり、核に吸い込まれるのを感じる。
それに微笑みつつ、ライフルのトリガーを引く。
続けて発射される光の弾丸。
普段は散弾のような小さいネオン光。
それが今は、膨大な数であるがゆえに、一筋の光のようになっていた。
火薬による兵器であれば、無数の爆発音がしたことだろう。
それだけの光弾が、無人機たちをひたすらに飲み込んでいく。
「一度後退! 様子を見るわ」
「ちょうど周囲の水晶も、ただの結晶になったようですね……」
きらめく水晶たちからは、確かに力を感じない。
鑑賞用、鉱物としては変わらないのだが……今さらながら、不思議なことである。
残骸がたくさん落ちている街中を、一度郊外へと駆け抜ける。




