JAD-199「アイデアはあればあるだけ良いわけでもない」
森、林、草原。
そしてたまに泉。
さらに時折、川を超える。
一言で言えば、大自然。
「平和な光景ですね」
「ええ、本当に。この場所自体は、かつての争いがあった場所のはずだけどね」
おおよそ20メートルほどの高さを、北東へと飛行。
森林の様子を確かめながらの飛行だ。
最初は、不自然なぐらい整った感じの森林ばかりだった。
それこそ、植樹して自然を整えましたって感じ。
でも今は、そういうふうには見えない。
たぶん、この辺りは自然が戻されてから時間がたっているんだろう。
「あ、鳥だわ……よく見ると、色々いるわね」
「こうしてみると、人間って邪魔なんですかね……」
眼下の木々から飛び立つものがあり、それは鳥たちだ。
それに、木々や草原にも駆ける動物たちが見える。
それに、草花もさまざまに。
(荒れ地や砂漠がある地方と比べたら、まさに別世界ね)
カインや少年たちは元気にやっているだろうか?
そんなこと思い出してしまう光景だ。
「正面に金属反応。あれは……残骸ですね」
「無人機の集団っぽいわね」
森林の中に、ぽっこりと丘のようになっている場所があった。
ゆっくりとそちらに向かうと、草木に覆われた残骸。
覚えのある姿の、無人機だったものだ。
「森に食われた? まさかね」
「この辺り、戦場だったんでしょうか」
たぶん、そうだろう。
よく見ると、少しクレーターとしてへこんだ場所も見える。
それどころか、木々のふもとにいくつもの金属的な残骸も。
たぶん、大ミミズの後を追うように、木々をどうにかしてる存在がいる。
それは小さいゴーレムかもしれないし、他の何かかもしれない。
「できれば制御というか、人里にはやってこないようにしたいんだけどなあ……うーん」
ある日突然、外の森が襲い掛かってくるも同然というのは回避したい。
そんなことを考えつつ、適当に足元をブリリヤントハートに掘らせてみる。
モニター越しだけど、豊かな土壌に感じる土だ。
「かつて、石の力、星の力をぶつけ合う戦争があり、その結果大地は荒廃した。戦火から遠い場所ほど、今人類が生き延びてるのはそのせいね。この辺と、砂漠が広がるような場所の違いはなんでしょうね……」
「あの虹色の結晶、星の力が通る場所かどうかというのはありそうです。無人機や機械アリも狙っていたわけですし」
「確かに、それはありえそうだわ。ということはこの辺りは……」
コックピットを開くと、さわやかな風が吹き込んできた。
濃厚な自然の香りに思わず頬が緩む。
別の町中の空気も嫌いではないけれど、別物よね。
「セット、アクアマリン」
適当にライフルを構え、石の力を使おうとする。
すると、周囲の力は素直に反応したのがわかる。
ブリリヤントハートだけじゃなく、周囲に埋もれている石ころにすら、微弱な力。
空へ向けて力を解放、雨のように水を広範囲に撒いてみた。
「データ確認。効率が半端ないってやつですよ」
「やっぱりね。この辺り、もうかつての……石の力が使われる前の土地に近くなってるんだわ」
そう考えると、星の力が復活しているといえるのだろうか?
これまでの状況を整理すると、かつての戦争や文明崩壊時、さまざまなことが実行されたとわかる。
それらは協力しているものもあれば、独自の動きだったものも。
そこに、時間差で宇宙からやってきたであろう存在の目的も絡み合い、おかしなことになっている。
石の力を活用するアイデア、生まれる問題への対処のアイデア。
宇宙からの何かへの対処、ミュータントへの対応。
様々なアイデアが求められ、人類はそれぞれに答えを出した。
それが今、混沌とした形で星をめぐっている。
「少なくともあれは、いらない争いだったでしょうね……」
再びの空の旅。
その先で見つけた、広い荒地。
その中央には、崩壊しかかった巨大な砦があった。
そう、メテオブレイカーだ。
まるで墓標のような姿に、もの悲しさを感じつつ、近づいていく。




