JAD-019「輝きの価値は」
街を照らす朝日。
今のところ、赤いとか青いとか、変な朝日ではない。
この世界に降り立ったことを自覚してしばらくは、少しだけ期待したのは内緒だ。
SF映画のような、不思議な朝……そんな光景に。
「前より店が増えたかしら?」
「うん。野菜とか、食べ物のお店が増えたよ」
支給されたのであろう服装で、なぜか胸を張る少年。
痩せた感じはしないから、カインの店でちゃんと働けているようだ。
「そう……周囲のミュータントや獣が減ったとかかしらね……」
「そうかも。それより、何を探すの?」
少年も、わざわざ呼び出されたということは普通じゃないことに気が付いている。
であれば、私も子ども扱いせずに仕事のパートナーとして扱わないとね。
少し周囲を伺い、適当に露店のジュースを2つ買い、隅に。
邪魔にならないように飲んでいるという風で人込みから外れた。
「これを、こっそり売ってる奴がいるらしいのよ」
ちらりと、ポケットにしまったままの黄緑色の結晶を見せる。
少年にしか見えない角度で、ちょこっとだけだ。
「色はついてるけど普通の水晶じゃん。動力に使っても、この大きさじゃ出力が足りないんじゃないの?」
ほんの少しなのに、少年は的確に言い当ててて来た。
そのことに、個人的に満足しつつ、カップを口元に。
そうすることで、話す内容を隠すのだ。
「そ。工房の人がつかまされちゃってね。お仕置きしに行くのよ」
「なるほどなー。この辺、未登録の露店ばかりだもんね。俺もそうだったけど」
実際問題、露店は自由に出せる。
登録をしておけば、場所の予約が出来たりするし、商品を預かってもらったりも出来る。
逆に言えば、ぱぱっときて売っていくのは自由なのだ。
「売ってる人は変わってるかもしれないから、見て回るしかないのよね」
「じゃあ俺が手伝えるのはそこなんだね。わかったよ」
自分の役目をしっかりとわかった様子の少年に頷き、その手を握ろうとして、避けられた。
おお?と思ったけれど、小さくても男の子。
やっぱり恥ずかしいんだなと思い、その背中を軽く叩くことで答えにした。
「そういえば、名前は」
「トム。また今度家に来てよ。母さんたちに紹介したいんだ」
少なくない借金を肩代わりした縁ではあるのだけど、どうやらその後は順調らしい。
たち、ということはお父さんも帰ってきたのかな?
「ええ、もちろん。じゃ、探索開始よ」
トムを従えて、人込みに戻りたくさんの露店巡りを開始する。
大体、露店は売っている物が近い人たちが固まっている。
最初は食べ物が多かったけど、すぐにその中身が変わっていった。
「中古の銃器かぁ……護身にはいいけどねえ」
「カインさんが、俺は銃は持つなって」
少し不満そうだけど、これはカインが正しいと思う。
銃は、それこそ引き金が引ければ女子供でも、使えてしまう。
逆にそのせいで、何かあった時には始末されてしまう対象になるのだ。
「まずは、儲ける方で役立つのが一番よ」
それだけを言って、銃器のゾーンを抜けていく。
そして、目当てのゾーンがやってきた。
「思ったよりあるわね……」
「でもさ、お姉さん。ばれたら……って考えると、大体みんな正直な商売すると思うよ」
それもそうである。ジュエリスト、宝石から力を引き出せる人間は意外といる。
となると、売り物が本物かどうかを確かめられる人も、希少ではないのだ。
馬鹿正直に商売する人もいないだろけど、嘘ばかりの人もいない……それが日常。
そんな中、色付き水晶を売っていた奴は、普通じゃないということだ。
「お姉さん」
「ん、どうしたの」
欲しいものがあった?なんてつぶやいて、さりげなく視線の先を見る。
一見すると、普通の露店。
原石と、研磨後の両方を売っているようだ。
少し道を逸れ、遠巻きにその露店を確認……なるほど。
売っている物は他と似ているように見えて、少しだけ違う。
なんというか、需要のあるお手頃なものをそろえた感じだ。
「右にある奴ほど、色付きだよ」
「ええ、わかったわ。終わったら、ちょっとだけJAMの操縦、教えてあげる」
最初に出会った時もそうだったけど、予想以上に目利きだ。
むしろ、彼の目には宝石たちが違う形で見えてるのかもしれない。
そういう特殊能力が、人間にはたまに備わっているのだ。
他の客と同じように流れに戻り、問題の露店に。
さりげなく冷やかしのように眺めていくと……確かに。
似てるけど、違う。
「これ、この値段かしら?」
「一括なら端数をおまけしておくよ」
答えたのは、どこにでもいそうな普通のおじさん。
採掘してる風でもなく、商売をしてる風でもない……逆に怪しくない?
「あら、いいの? アメジストがこの値段なら、お買い得よね」
「そうだろう? ある分だけの特価さ」
本当にアメジストなら、この値段は実際に欲しいぐらい。
でも、色を付けた水晶であれば、とんでもない。
「なるほどね。ところで、知ってる? この街、宝石の詐欺行為は厳罰なのよ」
「なっ!?」
周囲の視線は承知のうえで、ホルスターからハンドガンを抜き放った。
左手には、安売りのアメジストもどき。
数歩踏み込み、露天商の顎下に銃口を突き付ける。
「これがアメジストですって? 冗談、検査機にかけてもいいのよ」
「私は、アメジストだって買い付け……」
こうして騒げば、すぐに自警団がやってくる。
だから、聞こえるように言ってやるのだ。
この男が、ニセモノを売っていると。
実際に、どこかで騙されて仕入れたのならそれはそれでよし。
もっとも、目利きに失敗しニセモノを売ろうとしたという風評はついて回る。
知らなかったとしても、こういうものには責任というのがあるのだ。
もちろん、わかって売っていたのとは違うけれどね。
そのまま、自警団に連れられて行く露天商。
私はそれについていきながら、周囲の気配を探っていた。
そそくさと逃げるような奴がいたら、そいつも……!
「アナタ、そうそこの人、ちょーっと売り物見せてほしいなー、駄目?」
後で、トムには別人みたいと評された猫なで声で近寄ると、男は売り物を蹴り飛ばす勢いで逃げ出した。
半ば予想していた私は、そのまま男を追いかけ、すぐに追いつく。
周囲の他の人が、手伝ってくれたのだ。
「何もないなら、逃げる必要ないでしょー?」
「くそっ……」
男を捕まえつつ、そんなことを呟いていれば、自警団のおかわりだ。
追加で男を連れていくことになり、私もつきそう。
結局、どちらもニセモノを売っていたということで処罰を受けることになった。
ただ、1人は本当に買い付けの段階で騙されていた様子。
そしてもう1人は……少し訳ありのようだ。
「まっ、そこまでは私は関係ないんだけどね」
「ありがとよ。出来てるぜ」
顛末を親方に報告し、トラックの出来具合を確かめつつ、カタリナと合流だ。
綺麗なトラックに満足し、次はどういう旅をしようかと、考えるのだった。




