JAD-001「ジュエルアーマード」
本日2回目になります。
「メインブースター出力安定。このままいく!」
「救助対象を望遠カメラで確認。正面に回しますね」
トラックの隠れていた岩場を、一息に飛び上がった私。
もちろん、生身ではなくジュエルアーマード、通称JAM。要はロボだ。
乗り始めた当初は、興奮のあまり我ながらおかしな言動だったと思う。
おかげ様で、今はまあ……フリーで生活できる程度になれたんじゃないだろうか?
「動く岩塊……野良ゴーレムね。大方、砂嵐で出て来た鉱床に宿ってたのかしら」
「たぶん、そうですね。逃げようにも、乗り物の不調、と。どうします?」
返事の代わりに、ブースターの角度を変えて降下していく。
そのまま、隊商を追いかける岩塊、ずんぐりむっくりな人形みたいな相手に向かう。
かつての作業用機械、その成れの果てだ。
「こちらフリーのジュエリスト、レーテ。援護する」
一応、無線のオープンチャンネルで宣言してから機体に一丁の銃を持たせる。
見た目は、人型のそれを大きくしたようなライフルだ。
大きく違うのは、通常のような実体弾ではないことだ。
ジェネレータからのエネルギーを、特殊な力場で包んだ…熱量弾?みたいなもの。
カスタマイズを重ねた結果、私の機体、ブリリヤントハートの操作はゲームのようだ。
スティックやペダル操作はあるけど、大まかなターゲッティングはカタリナがやってくれる。
そう、機械人形であるカタリナはこのロボ、JAMの管制AIのようなこともできるのだ。
一応、二人乗りをすることもできるので、そうするときもある。
今回はトラックもあるし、サポートだけをしてもらっている。
「まずは関節部に……シュート!」
都合、5発の弾丸がゴーレムへと襲い掛かり、全弾命中。
さすがに動きながらなので2発は当たっただけ、残りが関節部へと当たる。
今回は破壊より、手足の結合に影響を与える物を選んだ。
「思ったより脆いわね……」
「敵性体ゴーレム、右足の結合解除を確認、倒れます」
砂煙をあげ、倒れ込むゴーレム。
その間にと距離を取るトラックとの間に、機体を滑りこませる。
「コアの位置は……あら、むき出し」
「よほど運よく……運悪くですかね。誕生したてみたいで」
残った手足で立ち上がろうとするゴーレム。
相手の狙いは、恐らくはトラックの動力源だ。
生き物が、生き残るために食べ物を摂取しようとするような、本能的な物。
地上に降りたち、銃を向けたままその様子をうかがう私。
「ここまでよ。ごめんなさいね」
つぶやいてから、ブリリヤントハートのもう片手に、筒状の武装を持たせる。
記憶にある空想作品的には、よくあるものではあるけれど、個人的にはロマンの塊。
「ジェネレータよりブレードへ供給開始。ブレード、オン」
もし、外に収音マイクがあれば、独特の起動音を聞くことができたと思う。
中にいる私には聞こえないけど、再現された音がちょうどいい大きさで耳に届いた。
「好きですよね。レーテ」
「まあね。コアを分離する!」
何度も調整したモーションデータに従い、機体が銃を腰に収め、ブレードを構える。
それは光の刃、熱により切り刻む武器の一種だ。
わずかな砂煙をお共に、踏み込んだ私は……確実にゴーレムのコアを両断した。
硬いパンをねじ切るような手ごたえを残し、ゴーレムは沈黙。
「終わった……かな? さて、一応お話もしないとね」
「慣習的には、倒した人の物ですけどねえ」
カタリナの、スピーカーからの音声に苦笑する。
それはその通りなのだけど、クセみたいなものだ。
こう、ネットゲームで助けるためと言っても横入りが御法度だったように。
「私はトラックをこっちに持ってきますね」
「よろしく」
戦闘行動でなければ、カタリナがこっちで動いている必要性はない。
トラックにいた機械の体のカタリナ、機体の制御AIとして存在するカタリナ。
彼女はどちらも彼女で、同期している。
足を止めたトラックへと機体を進めると、相手は既に外に出てきていた。
となれば、私も降りないのは礼儀としては失礼だ。
「お怪我はありませんか」
「おかげさまで、積み荷も無事ですし、少々トラックが不調なぐらいで。助かりました」
挨拶に出てきていたのは、おじさんと呼ぶほかない男性、そしてこちらを窓からうかがう女性と子供だ。
家族……だとは思う。にしても、不用心というほかない。
確かにこのルートは、周囲と比べるとかなり安全なルートなのだが。
こちらを見て、まだ若い少女だということに驚いているのがわかる。
「砂嵐の予報はご覧になりませんでしたか?」
「お恥ずかしい話ですが、納期がぎりぎりでしてね」
半ば予想した答えに、こちらも頷くしかない。
大規模な隊商を組めない状況であれば、小さな仕事、厳しい仕事でも受けていかないと生きていけない。
100パーセントではないのなら、砂嵐を回避できるかも、と思うのも……うん。
私もこうしてフリーで活動できるまでは、苦労の1つや2つ……っと。
「どちらまで?」
寄り道しそうになった思考を戻し、聞きだした話によれば、自分も立ち寄る予定の町だ。
となれば、後はこの後の交渉次第。
私自身は、別にここで別れても何の損もない。
この星では、そのぐらいが普通だ。
とはいえ、私が普通かというと、そうではない自覚もある。
「ちょうどよく、私もそちらに向かう予定でして。ゴーレムをこちらで貰ってよければご一緒しましょうか。清掃や応急処置も到着後に払ってもらえれば部品を出しますよ」
「よろしいのですか? あ、いえ……そういえば、お名前がレーテと……あの?」
「良い噂だといいのですけれども、恐らく。部品の上乗せは手間賃ぐらいで良いですよ」
幸いにも、私がこの世界に生まれ落ちてからの活動は、それなりに名前を売ることになったらしい。
恐らくはこの地域だけだとは思うけど、相手の態度が急に軟化した。
カタリナの操作するトラックが到着したのを契機に、男性は自分のトラックへ。
私は機体に戻るとゴーレムの残骸をつかみ取り、荷台の空きへと詰め込む。
「カタリナ、あっちのトラックを確認、修復が必要なら手伝ってあげて」
「わかりました。レーテが決めたことですからね」
てきぱきと、人形のように……って実質、人形ではあるのだけど。
工具箱を片手に、相手のトラックへと移動するカタリナを見送る。
私はと言えば、回収したゴーレムの組成を軽く調べる。
「結構いい純度……工場でもあったかしらね」
顔をあげれば、周囲には荒野、砂漠、ちょっとの緑。そして岩山。
どうみても、何もない場所なのだけどこの場所に限らず、星全体はかつて繁栄の最中にあったらしい。
町が、工場が、そして軍、国たちが。
それらが一度崩壊し、自然がある種戻ってきた土地、それがこの星だ。
ゲーム同様の、設定。
そんな考え事は、カタリナからの修理完了の知らせがあるまで続いたのだった。