JAD-198「量産される自然」
森が動いている。
最初、それを見た時の感想がこれだ。
「ここに来た時には、もう少し向こうだったと思います」
「そうよね。すぐ戦いに入ったけど、間違いないと思う」
まだ遠くだが、街の外、草原の向こう側に森林がある。
大小さまざまな草木が広がる、とてもいい森林だ。
ただし、明らかに近づいている。
正確には、なかったはずの木々があるのだ。
無人機の始まりの場所、そこに虹色の結晶がため込まれてるのではないかと予想。
その場所を探すように北上していた私たち。
見つけた大きな街で色々と発見をした後、次の場所に向かうべく廃ビルの上に飛び上がったところだった。
「不思議と、嫌な感じはしないわ。むしろ、応援したくなるような……」
「もしかして、地上の自然を再生する何かでしょうか?」
思い浮かべるのは、どこからか湧き出てきて、種子を内包していたゴーレム。
言い換えると、自律移動が可能な植林装置のような存在。
どの段階であれが設計されたのかはわからないけど、確かにあれ1種とも考えにくい。
「一応、確認だけしてみましょうか」
森林が広がってる気がするのは、街の東。
大陸の中央部に向かう方面だ。
いざ、と飛び立ったところでその異常さに気が付く。
「くっきり分かれすぎでしょうよ……」
「衛星写真を確認。この先、だいぶ前から草原や荒れ地だったはずですよ」
まるで森林のタイルを何枚も張り合わせたような、同じ光景が広がる。
明らかにおかしい光景に、言葉を失いかける。
ゆっくりと空から近づくと、その姿もはっきりしてくる。
そうして見えてきた森林は、やはり不自然だった。
不思議と、奥の方に行くほどばらつきが出てくる。
境界近くは……なんというか、不自然としか言いようがない。
適度な隙間、適度な立木、下生えの草花。
どのぐらいかは別にして、一定間隔で同じような姿が広がっている。
(待って、これ……維持できるの?)
「どこかで、限界を迎えると思うわ。だって、水源がなさすぎる」
「街の様子からして、豪雨地帯ってわけでもないですよね」
そうだ。街の草木がその証明だ。
この辺りが雨が豊富なら、もっと生い茂っていただろう。
「何より問題は、植物だけあればいってわけじゃない。虫も、微生物もいる。動物だって……」
詳しく探せば、虫とかはいるような気もする。
そんな不気味な森林だけど、今から私たちが何かできることはなさそうだ。
一通り観察し、この瞬間に動いてる様子はないことを確認する。
「移動しましょうか……」
「了解です。地上に降りてトラックを出しましょう」
頷き、降り立つ。
次元収納からトラックを出そうとして、気が付いた。
「振動? 地震……いえ、違うっ!」
とっさにブリリヤントハートをジャンプして後退。
そのすぐ後に、地面から無数の何かが飛び出てきた。
細長い体、ぐねぐねっとした長い何か。
「ミュータント!」
「この形状、ミミズってやつですか!?」
ちょっとした立木ほどもありそうなその太さに、思わず顔が引きつるのを感じる。
確かにあれぐらいないと、土壌改善は難しいかもしれない。
だけど、限度ってものがあるでしょう!
「らしいわねっ! 石を食べるぐらいはしてそう!」
なるほど、どんな荒地でも自然あふれる土地にってわけね?
森が広がるのはともかく、あいつが街まで来たら厄介な気がする。
廃墟とはいえ、街が自然に染むのは少し、ね。
「止めるのは……無理そう?」
「どうなんでしょうね。何がきっかけになってるかもわかりません」
距離を取ってみると、大ミミズはまた潜った。
今のうちにと、敢えて森林のほうに近づいてみる。
どのぐらい数がいるかを確認したかったのだ。
「レーダーに反応あり! かなりの数ですよ。こっちに来ます!」
「嘘、何かでこっちを感じてる!?」
地上に降り立つ直前、大ミミズの動きが活発になるのを感じる。
レーダーでの反応が、急に激しい動きになったのだ。
となると、だ。
「JAMか、その核とかに反応してるんじゃないかしら」
「JAMとかのある場所が、自然の少ない場所だから……ですか?」
乱暴な仮説だけど、当たりっぽい。
なぜなら、移動するとそれについてくるように大ミミズが移動するからだ。
高さも、距離も取って移動すると動きはないようだった。
もしかしたら、ミミズに見えるけど人工物なのかも……。
「寝泊りしてたら街が森に沈んでたかもね」
「ぞっとしませんよ、それ」
文明崩壊前後、さまざまなことが試されたに違いない。
ミュータントの戦いや、人類同士の戦争もあっただろう。
無人機との戦いは、その最たるもの。
そして、石の力を使う戦いは自然の荒廃を招いた。
そう考えると、あの大ミミズと森の関係も、わからなくはない。
理想の自然が、量産されている。
「問題は、あの森がどうも見覚えがあるってことね……なんだったかしら」
「レーテの状況から行くと、例のゲームとしての記憶ですかね?」
たぶん、そうだ。
似たような何かを経験したような気がする。
というのも、あまりにも統一された植生だったのだ。
もっとこう、自然な組み合わせであってほしいと思えるぐらいに。
暴走したシステムを止める、そんな依頼にあったような気がする。
「考えても仕方ないか。もう少し離れてからトラックに切り替えましょ」
向かう先は西……ではなく、東だ。
森が、すでに地上に姿を取り戻した箇所なら、何かわかるかもと思ったのだ。
大ミミズが、隅の方にしかいないことを願って、森林の上空を飛んでいく。




