JAD-197「絡み合う鎖」
記憶にある人類の歴史。
遥か昔には、壁画といった形で文化を残したという。
とても詳細に描かれ、写真と見まごうばかりの絵画。
あたかもそれが、前文明の遺産のように感じるのだった。
「この時期からドラゴンが飛んでいたんですかね? 空想でしょうか?」
「どうでしょうね。ここにあるってことは、事実なんじゃないかって気もするし……」
ライトで照らし出されることで、今にも動き出しそうだ。
さすがに絵の具といったことはなく、よくわからない素材でできたプレートの様だ。
その意味では、写真と同じかもしれない。
JAMらしき存在は描かれていないということは、石の力がない時代だろうか?
だとすると、さすがにドラゴンは空想か。
外の建物名のように、読めればよかったのだが、表題だろうものは読めない。
(問題は、よ。この場所を用意した人類と、宇宙からやってきたかもしれない人類、今の人類が果たしてどういう関係なのか)
正直、わからないことが増えただけのような気がしないでもない。
間違いないのはこの星に、かなりの文明があったということ。
そしてその文明は、今の人類とは文字からして違ったということだ。
その割に、機材といった物は流用できるところが、面白い。
目の前の絵だってそうだ。
謎が多い中、共通項もあることが、私の興味を引く。
「なるほど。でもそんなことがあり得るんですか? さすがに統一された言語だと思うんですが」
「そうよね……私もそう思うわ。普通なら、ね」
人類は少なくとも2種類この星にいた。
そんな自分の考えをカタリナに告げると、彼女も同意する。
そのうえで生まれた疑問、その答えはすぐにわかった。
奥に、別の絵画もあったのだ。
そこにあったのは、異形。
正確には、慣れ親しんだ姿の異形、無人機だ。
何かと戦っている図が描かれている。
そしてそこには、明らかに石の力を使う兵器の姿も。
表題は、2つ並んでいた。片方は読めない。
もう片方は……。
「意思なき来訪者との戦い……これは読めます」
「ということは、ここには2つの言葉を使う人間がいたということだわ。2種類の人類ではなく、ね」
ざっくりとした時系列だと、まずこの星に人類がやってきた。
その人類が星を開拓し、文明を築く。
そこに、無人機たちがやってくる。
おそらく、最初の隕石もこのころだ。
あとは、どこかのタイミングで人類側が敗走し、無人機たちが支配領域を持つようになった。
「無人機たちに負けるあたりと、文明が滅んだあたりがよくわからないわね」
「外は無人機で埋め尽くされてるってわけではなかったですね。むしろ、普段は見ないぐらいです」
そこが問題だ。かつての文明は、かなりのものだったはず。
その文明が滅ぶほどの戦いであるなら、今も無人機がうじゃうじゃといるはず。
鍵はミュータントと、石の力にあるような気がする。
とはいえ、それを解き明かしてもあまり意味はない。
(結局、今の人類が生きるのに必要であるかどうか、よね)
ということで、ひとまず過去の真実を追い求めるのは止めておく。
一部の保存ケースを手に、外に出ることにした。
「このままここは、静かにしておくべきですかね」
「そうねえ……少なくとも、この辺りまで人類が管理できるようになってからね」
階段を上りつつ、思考する。
思い浮かぶのは、この星に来たであろう人類のことだ。
もしかしたら、かつての人類と、無人機を送り出した存在。
それはどちらも同じかもしれないのだ。
宇宙へと旅立った時期、打ち出された時期が違うだけで……。
もしそうだとしたら、とても悲しいことだ。
複雑に絡み合う、進化の鎖の様。
そんなことを考えながら外に出ると、入った時と同じように静かな夜。
少し前まで、ここでは無人機たちだけが動いてたのかと思うと、なんだか不思議な気分だ。
「お前は、どれだけここで見つめてきたんだろうね」
ほのかに周囲を照らす街灯に、そんな言葉を投げかける。
街灯は当然返事をすることはなく、偶然にその灯りがちらつくのだった。




