JAD-196「生命の森」
空間に突入し、ライトの範囲を広げる。
浮かび上がってきた光景に、思わず息が止まる。
施設の名前、そしてこの光景がその通りなら……。
「嘘でしょ……本当に? 宝の山にもほどがある!」
「レーテ、私にはそこまでのものなのか、実感がないんですが」
一見すると、つまらない資料館のような光景。
多くの棚、多くの引き出し、そして稼働し続ける保存装置。
一体どれだけの時間、年月を過ごしたのだろうか?
その1つ1つが、ここの技術が外と逸脱していることを示している。
一番気になるのは動力源だけど、そこはある意味簡単だった。
ここの床材は、普通。もっと言うと、床の下に何かある。
(となると、この深さや構造なら、無人機に見つからないという確証があった?)
「ここを作ったのは、最初に星に来た人間か、その技術を解析できた人間、特に無人機のことを知っていた存在ってことなるわね」
困惑するカタリナへ、隕石にあったような、長距離・長時間の保存・保管技術が使われている、と告げる。
そう、記憶にある映像作品のような、冷凍睡眠が近いだろうか?
そして、その動力に石の、星の力を使っている。
暗闇に、一体どれだけのものが保存されているのか。
(ものすごい技術、そこまではわかる。けど、この効率の良さはあり得ないほどだわ)
10年20年ということはない。
少なくとも百年単位。もしかしたらもっとかもしれない。
「多くは遺伝子情報だけだけど、一部は種子が残ってる。まるで生命の森だわ」
「外の環境に適応する種子があるかもしれない、と?」
頷き、一部の例外である種子保存箱を手にしてみる。
状況確認のために、少しの間は手にするぐらいはできそうだったからだ。
高度な技術で冷凍された種子は、豆類だろうか?
詳しい情報は調べないとわからないけれど、無事そうに見える。
ほかにもいくつか手にしてみるが、同じように保存状態は良好に見えた。
そして、遺伝子情報もまた、無事だ。
「なるほど。バリエーションというか、品種改良というのか、興味深い情報ですね」
「ええ、まったくだわ。問題は、これが宇宙からはるばる来たのか、この星で新たに保存されたのか……」
一番の問題は、ここから持ち出されたことがあるのかどうか、である。
この街がかなり古く、最近廃墟になったわけではないのは明らかだ。
この辺りはあまり雨も降らないようだし、外の建物たちも思ったよりは壊れていない。
詳しく調べれば、建材もこれまでの街とは少し違うだろうとは思う。
「カタリナ、メテオブレイカーからの衛星地図、一緒に見てもらえる?」
「? はい、それぐらいは別に。でも、何を見るんですか」
「思い出したのよ。最新だけじゃなくて、何パターンももらってたことを」
用がないのですっかり忘れていたが、画像にはよく見るとバージョンがついている。
いつ撮影したか、という情報だ。
そして、オプションを開けばそこには撮影時期の日付が残っている。
(道理でデータとしては大きかったはずよ。星全体だから当然と思っていたけど)
今はその几帳面さがありがたい。
座標は大体しぼってあるので、すぐにこの場所を特定する。
「適当に飛ばしながら確認をっと……あ、ほら。この辺りの年だと、この街の近くに集落があるわ」
日付的にはかなり前。
人間換算でいうと、何世代も前の時期の物だ。
「ここからさらに北かは別にして、この辺りが無人機の襲撃を受けて街を放棄、徐々に後退していってる感じね」
「長い間、戦ってたんですね」
変なところから、こちら側の歴史が垣間見れてしまった。
見る限りでは途中から、無人機の侵攻は鈍っている。
補給線みたいな問題なのか、他の何かか。
「ミュータント……かしら?」
「かもしれませんね。彼らも生き物です。無人機は、敵です」
脳裏に浮かぶのは、哀れにも改造されてしまった獣。
彼らも、最初は無人機と敵対していたに違いない。
「在庫がそこそこあって、装置ごと持ち出せるのは少しもらっていきましょう。私たちなら、次元収納内で保存用の動力を供給し続けられるわ」
「わかりました。選んでおきますね」
作業を彼女に任せ、私は施設内の探索を続ける。
ほかに何か、有用なものがあれば……。
そう思いながら、進んだ先にあったのは小部屋。
外からはガラス張りのように中身が丸見えで、意外なことに棚以外のものがある。
椅子、机、そして……。
「絵、か……」
空想を描いたというほうが納得いく大きな絵が壁に立てかけてあった。
無数のビル、行き交う車両らしきもの、そして人。
そんな町のすぐそばには海、顔を出す魚たち。
空には鳥と……竜?
「一体いつの……」
つぶやきは、装置の作動音たちに溶けていく。