JAD-195「希望の種」
「鍵、鍵……と。こじ開けたらだめよね?」
「中の様子がわかりませんからねえ……」
最初は、閉じられた扉部分を確認。
電子キーではなく、物理的な鍵だった。
この施設がいつのものかはわからないけど、無理をすると鍵自体が破損しそうだ。
本当は盗賊めいた行動なのでやりたくはないけど、仕方ない。
視界を、石の力が見えるものに切り替えて鍵穴に手。
「力を充満させ……その空間を見る」
「なるほど、器用なものですね」
透明人間に煙や液体をぶつけるようなもの、と言えばわかるだろうか?
そうして、鍵の構造を確認。
あとは、石の力を使って砂を硬く形作るだけだ。
少なくとも、人の目がある状態や報告ではこんなことはできない。
ほかのジュエリストが出来るという話は聞かないから、隠されてるか、不可能か。
(泥棒が簡単にできますってことだもんね、内緒内緒)
「よしっと……」
なんとかひねることができた鍵。
複製した鍵は砂に戻し、扉に手をかけ……開く。
警戒のため、カタリナには銃を構えていてもらう。
ついでにライトで照らせば、そこには無骨な受付と、階段らしき部分。
「地下、ですか」
「そりゃそうよね。名前通りなら、環境が変化しない状況が望ましいもの」
それこそ、砂漠地帯にある洞窟の中、なんてのは湿度、温度共に完璧だ。
そういった環境を再現すべく、こんな状態なんだろう。
問題は、別にある。
「どうしてここが放置されてたかよね……あいつらが、利用しそうな施設だけど……」
「もう機能的に死んでるとかでしょうか?」
確かに、それが一番あり得る。
価値がない状態であれば、放っておかれるだろう。
その割にはきれいな室内。
扉を閉めれば、こちらのライト以外は灯りもなく、静かなものだ。
「受付には端末も何もなし、か。机に何か彫ってある。変なの……」
「封印の解除には、以下の手順を実施すること……無人機が読めないってわかってる感じですね」
「そうみたい。ええっと、こっちがこうで……備考が気になるわね。床素材のことが書いてある」
階段らしい場所の蓋、そして床材の記載が目に入り、驚く。
そこには……石の力が通らない合金が使われている、とある。
カタリナに見せても、信じられないといった顔だ。
「石の力が通らないなんてあり得るんですか?」
「無くはないんじゃない? 電気とかだってそういうのあるわけだし」
正確には、吸収してしまうので貫通できない、という話じゃないかなあとは思う。
試しに床に意識を集中しても、力が吸い込まれるかこちらに戻ってくるばかりで、下に抜けていかないからだ。
JAMに使えるかもと思ったけど、力が通らないんじゃ機体としては使えない。
でも、例えばそう……盾とかどうだろう?
素材が確保できるなら、実験してもいい気がする。
「じゃあ、あれは直接持ち上げないとですね」
「ええ、やりましょ。もし、名前通りの場所ならどこかに持って行って、希望の種として育ててもらわないと」
階段があるだろう場所の蓋を、2人で持ち上げる。
案外重さはそこまででもなく、無事にずらすことができた。
「無人機が来てないのは、このせいね。ただの建物扱いだったんだわ」
「じゃあ、全部無事かもですね」
頷きつつ、照らしながら地下へと進む。
思ったより階段は広くなり、長く続いている。
利用には不便だっただろうけど、実際保管にしか使ってないんだろうな。
しばらく降りていくと、シンプルな扉のある場所に出た。
ここにも受付らしきものはあるが、今度は端末が置かれていた。
電源は入っておらず、故障した様子はない。
「電気じゃなく、石の力みたいね」
専用のケースが設置されており、そこに石英や水晶結晶を入れるようだ。
適当に結晶を1つ入れると、すぐに反応があった。
「扉と中身は別口の動力でしょうね。何かあった時、封印しやすいようになってるみたい」
「本格的というか、予期しているというか……楽しみです」
音を立て、ゆっくりと大きな扉が開いていく。
中からは、清浄な空気が漂ってくる。
「中……生きてる!」
念のために武器を構えつつ、本命の保管部であろう場所へと突入した。




