JAD-194「空の高さと未来への……」
「夜になっても異常はなし、と。静かね」
「何かあっても困りますよ。どうします? こんな規模の土地、放棄するのももったいないですけど」
廃墟の中でも無事そうで、一番高い建物の上。
ブリリヤントハートを乗せても崩れることはなさそうだった。
驚きなのは、この廃墟自体はおそらくだが昔の物、ということだ。
何度も季節を廻り、人がいなくなった後も形を残していた建物。
そこで私たちは、テントを張っている。
庭木などから、薪を集めて焚火まで。
「どうしようもないわね。星が今の人類には広すぎるわ。徐々に土地を増やしていくだけね」
かつての人類は、多くが死んでしまった。
今、残っているのはその子孫であり……どのぐらいいるんだろう?
意外と増えていそうだけど、空はまだ取り戻していない。
「歩く以外の手段を得て、船や、車、そして飛行機。船と飛行機には、獣やミュータントがね」
「ああ、確かに……空はまだ数が少ないようですけど、海はそのまま終わりですもんね」
そう、空は最悪、落下の対策をして生き残れるかもしれない。
その代わり、海は沈めば終わりだ。
船から脱出しても、後は浮いた餌に過ぎない。
「大きな防波堤みたいなのを、湾に作るとかぐらいかしらね? 魚とかは通れるけどって」
「内政官にでもなるつもりですか? それもいいと思いますけどね。このままどこかに所属して、前線を盛り返すんですよ」
「戦う内政官、か。悪くはないけどね……」
保存食をあぶり、鼻に届くにおいに微笑む。
この感覚、無駄のように見える時間が、自分が生きているということを教えてくれる。
煙とにおいが漂う先、空を見れば月。
もとからあったのか、この星に来た人類が、月を欲したのか。
その記録や記憶は私にはないけれど、空に星だけがあるのはさみしい。
いや、もしかしたら……。
(星が見えると、かつての母星を思い出すから……とか?)
月に目が行くことで、星を思うことを少しでも忘れられるから、かもしれない。
人類はいつになっても、母星を忘れられてないのかもしれない。
もっとも、この星に人類がいなかったという証拠もない。
ちゃんと?ここで進化して人間になった存在ということも十分あるのだが。
「こんな感じだったらどうかなって思うんだけど」
「私は作られた側ですからねえ。作ったのが、この星で進化した人類なのか、外から来た人類なのかはどちらでも一緒ですよ」
カタリナの言うことはもっともで、今の私にも言えることだ。
考えても仕方のないことなのだから……うん。
「そうね。好きに生きればいいか」
「そうですよ。レーテも私も自由です」
頷き、そろそろ火の始末を……そう思った時だ。
視界に、動く光が見えた。
最初は焚火が反射してるのかと思ったが、そうでもない。
「警戒」
「え? 了解です。何かいましたか?」
立てかけておいた銃は、石の力を使えるもの。
トパーズをセットしておいたので、砂を生む状態。
放水するように焚火を消し、周囲を暗闇にする。
(意識していけば、ゴーグルいらずなんだもの……私も大概……今はいいか)
少し瞼を閉じて、目を慣らすようにすれば、見えないということはない。
月明りと、それを反射するビルや建物。
白黒だけの世界に、光がある。
「レーテ、念のためにJAMで行きましょう」
「そう、ね。ここは私たちにとって未知同然だったわ」
手早く準備を終え、夜の闇を飛翔する。
ただし、モニターの表示切替により、闇というほどではなかったりするのだが。
「町の外に近いですね……」
「無人機がいなくなったのが原因かしら?」
「そういうセンサーが生きているということに……シェルター?」
たどり着いたのは、重要施設とは思えない、こんもりと膨らんだ何か。
私が見ても、シェルターという言葉が浮かんだけど……人はいないと思う。
いたならば、無人機たちが放っておかなかっただろうからだ。
大きさはそこまでではなく、JAMのままというわけにはいかなそうだ。
となると、ここは一体……。
「攻撃はなし、と。降りてみようかしら」
「わかりました。念のために私が前に」
どっちでもあまり変わらないと思うけど、ここは甘えておく。
歩兵用の装備を身に着け、銃も持つ。
そしてシェルターらしき場所の前に。
プレートに、文字が残っていた。
「なんて書いてあるんでしょう。あのコンテナの中身に似ている気もしますが」
「……種子保存センター」
「読めるんですか!? 私のデータにも無い文字ですよ?」
私にも理由はわからない。
何より、読めたんじゃない。
なぜか、そうとわかる。
「私にもわからないけど、たぶん間違いないわ。未来の危機を、考えついて実行できた人間がいたってことね」
光っていたのは、正確にはここではなかった。
すぐそばにあった、街灯。
おそらくは、周囲の星の力を装置内の石英結晶に貯め、自動点灯するタイプ。
何かの拍子に回路がつながり、光り始めたんだろうけど……。
偶然にしては、出来すぎている。
かといって、偶然としか言えない……言い方を変えるのなら。
「運命、かしらね」
「何かを感じたんですか?」
ううん、と否定し、種子保存センターとやらに入るべく、探索を始める。




