JAD-193「類似か、そうではないのか」
「イラストから、なんとなくはわかるわね。これは食料品かしら……」
「ですかね? でも……これじゃあまるで、さっきのJAMに乗っていたのが、人間みたいじゃないですか」
戸惑う声に、私も明確に答えることができない。
まるでというより、そのものだと感じてしまっているからだ。
無人機による環境整備と資源回収、あるいは打ち出し。
いつか来る本体のための、準備だと私たちは考えていた。
現地の環境を整える派閥と、資源を回収・打ち出しにわかれるのは、時期の違いだろうと。
でも、ここにきて明確に違う存在が出てきたわけだ。
「人間そのものじゃ……ないと思う。もし、私が私だけ、あるいはカタリナしかいなかったら、そのうちダメになるわ」
「レーテ……」
感情の問題ではなく、理屈というのか、生き物としての問題だと思うのだ。
自分しかいない、という状況は思考をダメにする。
そうなると、色んなものが維持できなくなる。
そして、多く存在しないのは、ここで出てきたJAMが一機だけなことが示している。
戦車もどきすら、機械でしかなかったのだ。
「その場所が、人間……ええっと、宇宙人って呼びましょうか。彼らが生きることができる環境かを確かめるためじゃないかしら?」
「死んでしまうようなら、住むには向かない場所だと?」
頷き、空のパッケージを見ていく。
サイズは私たちとほぼ同じ、巨人や小人ということはないらしい。
だとすると、ますます嫌な予想が増えていく。
この星にいる人間は、先にたどり着いただけの存在という可能性だ。
もっとも、それを言い出しても何にもならないのだが。
「私ももしかしたら、そんな1人だったかもしれないわね」
「笑えないですよ、それ」
「ごめん。忘れて。今の私はこの星に生きる人間、それでいいわよね」
情報量の多さに、頭がどうにかなりそうだった。
がしがしと髪をかき、気分をそらす。
ふと、鼻に戦闘前に食べた食事の匂いが届き……ひらめいた。
「そうか。もやもやしてたのは、これね」
「何かわかりましたか? 今のところ、何かエネルギー反応とかはないですけど」
自分が、この星の人間に設計されたのではないかもしれない。
そんなもやもやとした気持ちが、ある意味晴れた瞬間でもある。
「アレに乗ってたのは生き物じゃないわ。少なくとも、同じような存在じゃ、ない。生活物資がないのよ。戦ったあの場所にも、それらしいものはなかったし、そんな場所もなかった」
「あっ!? 確かに! JAMの中が維持装置とかになってるのかもしれませんが、それならこんなものを作る必要もない、そういうことですね?」
頷き、パッケージをコンテナに放り込む。
あくまで、人間らしい存在による環境の再現……そんなものだったのだろう。
これに関しては、食事が必要な体である自分でよかったと思った。
安心しながらコンテナを探るが、他にめぼしい物は無かった。
外れのコンテナだったのか、あるいは……。
「一応、穴が開いた場所も確認するわ。そのあとは、移動しましょ」
結局、ここには謎の結晶はなかったように思う。
あれば、感じられると思うのだ。
機体に乗って外に出ると、動くものは何もなかった。
狼たちは別の場所にいるようだし、周囲から獣が来ることもなかなかないだろう。
ここは静かすぎるというか、町が大きすぎた。
ペットや家畜の1つでもいていいと思うのだけど、それらもいない。
おそらくここは、あの指揮個体が、そう判断したのだ。
すなわち、目立つ生き物の排除を。
この場所が放棄されて結構な年月が経っているようで、建物も古ぼけている。
衛星からの画像を確認すると、きっとそのころから廃墟に違いない。
ネズミとか小動物はいそうだけどね。
「穴の開いた場所に到着です。うーん、もともとのがれきばかり……あ、いえ。ありました」
思考を引き戻すように、ズームされた映像を見る。
そこに映し出されたのは、がれきに混じったあの空間の壁だった何か。
配管のようなものが張り付いており、周囲とは技術が違うことがわかる。
「完全にあそこは閉じちゃったか、どこかに消失したってことね。もったいないけど仕方ないか」
「残っていたとしても、いつ閉じるかわからない空間なんて、使いたくないですよ」
それもそうである。
苦笑しつつ探索は続けるが、こちらもめぼしい物は無かった。
「収穫はほぼなし、か。被弾がほとんどなかったのが幸いね」
「この辺じゃ、修理も補給も問題ありですからね……」
補給自体は最悪、どこか適当に掘ったりして賄えるかもしれない。
けれど、部品としての修理や交換は困難だ。
「安全第一で、行きましょうかね」
「レーテがそれを言いますか?」
こちらとしては真面目に言ったつもりだったが、カタリナには納得いかないとばかりに突っ込みを受けるのだった。