JAD-192「奇妙な文化との遭遇」
初めての、だけど覚えのある敵機との戦いの後。
町中の無人機を狼たちは噛み砕き、爪で倒していっていた。
私は、そんな中大きな狼と向き合っていた。
もちろん機体越しにだ。
「受け取ってくれるといいのだけど……」
「わかりますかね? あ、咥えましたね」
何かといえば、自爆した戦車もどき……その機体にあった毛皮だ。
結構な部分が焼け焦げてしまったが、装甲ごと吹き飛んだためか、形が残っていた。
がれきからそれをたまたま掘り出した時、狼たちのリーダー個体が近づいてきたのだ。
戦闘中には、口に武器らしきものを咥えていたが、今はない。
別の個体に預けているのかもしれないし、もしかしたらもしかするかもしれない。
いずれにせよ、だ。
「それは返すわ。その代わり、私もここを探すけど、良いわよね?」
伝わるとは思ってないが、ブリリヤントハートの腕を発電施設に向ける。
しばらくそうしていると、狼たちは別の場所に移動し始める。
見えなくなるまで、じっと待っている間、手がじっとりとしたのは言うまでもない。
戦えば負けないだろうけど、戦わないで済むならその方が良い。
「妙に緊張しましたよ」
「まあ、ね。それより、状況はどう?」
「無人機は沈黙、おそらくこの町の中で動いてる無人機はいないかと」
やはり、これまでの無人機とは少し違い、自立して動いているのが少ないようだ。
例外はあの戦車もどきであり、普段はあの戦車もどきが指揮を執っていた、となるだろう。
そうなると、あのJAMが地下で何をしていたのか、なんだけど……。
「戦いのとき、こいつ……妙に光ってなかった?」
「映像確認します……はい、確かに。戦い始めてからかなり光ってますね」
モニターに映し出されたコックピット内部の映像。
適当に固定しておいた結晶が、虹色に光を放っている。
脈打つようなその光は、時折強い光を放ち……んん?
「私が大きく力を使って攻撃した時ね」
「確かに、そのタイミングです」
「何か連動してるのか、ちょっとわからないわね。ひとまず調査を先にしましょう」
今までと毛色の違う相手との戦い。
記憶の、ゲームのままの相手という謎の存在。
その正体を探るべく、施設へと入る。
が、早々にその足が止まることとなった。
「どうみても不安定よね。消えたり見えたりしてる……」
「そりゃあ、相手ごと空間の天井を破りましたからね。まだ維持できてるのがすごいですよ」
そう言われると、何も言えない。
勢いでやったこととはいえ、さすがにまずかっただろうか?
地下に向かうスロープが、途中でおかしいことになっていた。
地下空間が見えていた場所が、自動ドアが開閉するように不安定な動きを示している。
下手に入れば、閉じ込められたりする可能性がある。
それだけならまだしも、次元の彼方に飛ばされてはかなわない。
「入り口近くに見えるコンテナだけでもつかめないかしら?」
「だったら、石の力を弱く伸ばした刃にしてひっかけた方が早くないですか?」
「そうね、そうしましょう」
石の力は、強い力だ。
けれど、普段の生活にも使える万能めいた力である。
何より、その形は自由。
ブレードの先に光を伸ばし、フック状の先端を作る。
戦いならば、これで相手の機体をひっかけてなんてやれるけど、その前に斬った方が早い。
今回はその刃を、物が切れない程度の力で伸ばし、空間をまたぐようにして差し込んだ。
「よっと……確保っと。あっ」
「閉じちゃいましたね」
1個を手元に寄せたところで、地下空間が閉じてしまった。
最悪の場合、中身が飛び出してきたりするので、警戒し……息を吐く。
今回は何もなかったと口にしようとし、爆音に驚く。
「状況!」
「はいっ! ええっと、発電施設の裏です!って……これ、飛び出してきた穴の部分ですよ」
「あ、なるほど……閉じた時のエネルギーが、穴から出ちゃったのね……」
そちらは後で確認するとして、回収できたコンテナの確認だ。
毒となる成分が混じっているかもしれないので、JAMによる開封とする。
慎重にコンテナを開封し、ライトで照らし……。
「何よ、これ……嗜好品?」
「中身は空っぽいですよ。パッケージだけです」
コンテナに詰まっていたのは、さまざまな商品らしきもののパッケージ。
ただし、スキャンした限りでは、空。
ほとんどが、未開封だとわかるというのに、だ。
「まるで、手にできるカタログね。待って……これ、読めないわ」
近くに転がったパッケージの1つを拡大。
そこに描かれていたのは、この星では使っていない文字だった。




