JAD-191「迫る過去」
「まだ来ますっ!」
「わかってるっ!」
JAM同士の対決。
一対一かと思いきや、ここは相手のフィールド。
無人機もどきや、コンテナに隠れた銃座がこちらを襲う。
それらにカウンターを叩き込みつつ、本命と向き合う。
大きさはこちらとほぼ同じ、装備も似たようなものだ。
違うのは、全身真っ黒で、未塗装。
そして、どこかで見たような設計だということだ。
「射撃で牽制して突撃、そしてブレードっ!」
口にしながら、自分でもよくわからない感覚に襲われていた。
すでに経験したことのある攻防を、なぞっていくような感覚。
実体弾は使わない。
使うと、その隙に相手の攻撃が迫る感じがしたのだ。
すなわち、石の力には石の力でぶつかるしかない、と。
「そんな見え見えのフェイントにっ! 見え見えって言ったわね、私」
「私にはデータがありません。レーテは相手を知っているんですか?」
不思議な空間を、飛び、走る。
お互いの攻撃が、周囲のコンテナや銃座なんかを巻き込んでいく。
それすらも、まるで予定されていたかの様。
「私も知らない。知らないけど……」
視界の隅で、結晶が虹色に光を帯びた。
急に時間が遅くなったような感覚とともに、記憶のようなものがよみがえる。
これはそう、ゲームとして経験した戦いでの、行動予測。
敵対者であるNPCの陣営、その勢力との戦い。
正体不明のJAMと、戦いを繰り広げた。
「こんな場所で撃ち合いなんて……防いだ!?」
その記憶をなぞるように、敵機はこちらの攻撃を防いで見せた。
続けての射撃も、これまでにない動きで回避される。
その動きには、見覚えがある。
「ゲームの記憶が、現実だっていうの!?」
叫びながら、機体を前に。
それがわかっているかのような相手の動き。
同じくブレードを構え、光の刃がぶつかり合う。
「出力はこちらが上です!」
「そうでないと、ねっ!」
いつかの戦い、その記憶を思い出すように機体を操作。
感じた通りの相手なら、これで……かかった!
「バランスを崩すと、立て直そうとするクセ、そのままなのね!」
相手の足を払うように蹴り飛ばせば、刃をぶつけ合ってる最中なのに動きが変わる。
最適な姿勢を保つためという感じで、急に距離を取ったのだ。
「認めたくないけど……認めないと」
よくわからないが、相手は私の知っている相手だ。
かつての記憶、睡眠学習だとばかり思っているゲームの記憶。
けれど、それは本当にゲームだったのだろうか?
ゲームだと思っているだけではないだろうか?
「レーテ、いつでも」
「ええ、そうね。勝ってから考えましょう」
長く戦うのは、ごめんだ。
結晶の輝きも気になるが、それを調べるのも、後。
「グリーンダイヤ、イエロー、ホワイト、トリプル!」
「了解!」
ぶっつけ本番、ダイヤ3連だ。
相手が、ひるんだような気配を感じる。
気のせいかもしれないし、本当に中身がひるんだのかもしれない。
私が相手だったとしたら、やはりそうなるだろうなとは思う。
なぜかといえば、この力の怖さをきっと知っているからだ。
かつてあったという竜騎兵、実はゲーム内にもほぼ同じものがあったのだ。
その力の特徴は、複数のダイヤモンドによる超火力、超出力だったのだから。
圧倒的な力の奔流は、小手先の抵抗を押し流す!
「行くわっ!」
機体から溢れそうなほどの、石の力。
もうそれは星の力と言っていい規模だった。
一気に敵機へと接近し、純白と緑が混ざった光の刃を振るう。
相手は防御を捨て、急上昇。
上空へと逃れることでこちらの攻撃を回避した。
「その程度の高さならっ! ブースター準備! 空までぶち抜く!」
「ちょ、レーテっ!?」
地下、しかも謎の空間だとというのに、私は全力でブースターを吹かした。
そのまま敵機へ向け、光の刃を突き出す。
避けることもできず、敵機の胸元へと刃は吸い込まれ、そのまま空間の天井へ。
何か割れるような音がして、天井が砕けた。
土の中に飛び出るかと思いきや、空。
「外、外です! 地下じゃなく、外ですよ!?」
「ちょうどいいわっ!」
串刺しのまま、反撃してこようとする敵機。
その根性は認めるが、遅い!
光の刃を消し、相手を蹴り飛ばす。
自然と開いた距離。
機体の後ろに、廃墟となった町並みが見える。
「さよなら」
落下する相手に向け、ライフルを構えた。
一瞬の静寂、交錯したはずの瞳からは、何の感情も感じない。
あふれるようなダイヤ3連の力は、巨大な光球を生み出し、敵機を飲み込んだ。
何か抵抗するように相手の手が前に出たところまで見えたが、それも光に溶けていく。
「敵機、消滅……」
「そう……了解」
近くの建物の屋根に着地し、周囲を見渡す。
無人機たちは動きを止め、それらを狼たちがかみ砕いているのが見えた。
今のが、指揮官機だったのだろうか?
「ひとまず終わり……かしら?」
「確認項目は山積みですけどね」
カタリナのつっこみに苦笑いを浮かべつつ、ひとまずの勝利を味わうのだった。