JAD-190「違う相手」
「悩んでますね、レーテ」
「ええ、ここ一番ぐらい悩んでるわ」
言いながらも、機体を動かす手は止めない。
湧き出てくる無人機を凍り付かせ、ルートを確保。
しかし、相手も学習しているのか、こちらに攻撃できない無人機が驚くべき行動に出ていた。
すなわち、友軍への攻撃、誤射の類だ。
この状態では、それは相手の有利に働く。
凍り付かせることで戦闘不能、増援のカウントがされないはずの個体。
それが倒されたことで、増援がカウントされるのだ。
(わかってるってこと……ね)
稼働中の機体には誤射してこない。
凍り付いて、戦闘不能になっている相手だけだ。
「外の毛皮といい、ここは違う……」
「一時撤退しますか?」
カタリナの提案はもっともなものだ。
不明な状態でたたき続けるのは、確かに危険である。
が、ここで撤退するのも必ずしもいい結果になるとは思えなかった。
そして、謎の結晶も脈動するように瞬いている。
「いえ、突っ込むわ。仕切り直しは、まずい気がする」
敢えて笑い、踏み込む。
強気に、私は最強だと念じながら。
ゲーム、記憶でもそうだった。
勝てないと思ってしまえば、勝てなくなる。
気持ちでまずは、圧倒するのだ。
なにせ、元は発電施設だっただろう場所は、大きく中身を変容させていた。
「発電設備自体はそのまま、下に採掘ですか」
「そのようねっ」
突入した私が見たものは、見覚えのあるJAMらしい動力部分と、それに連なるあれこれ。
本来ならそれが町中の電気を賄っていたんだろう。
今は、別の意味で見覚えのある機材につながっている。
すなわち、無人機の生産ラインの1つ。
そのうえ、地下に向かうスロープがある。
その先が明らかにおかしい。
急に、空間が広がっているのだ。
「ええい、うじゃうじゃと!」
下手に威力のある攻撃を行えば、建物や岩の壁が崩れてしまう。
10メートルはありそうな幅の空間を、徐々に進む。
地下へ地下へと、進撃だ。
「どうせ倒しても倒さなくても出てくるなら……アパタイト!」
「全部吹っ飛ばしていくんですねっ!」
正解っと叫びつつ、攻撃方法をネオン光の蝶へ。
散弾のような大きさの光の弾丸が、通路を舞う。
正面の相手すべてを撃ち抜きつつ、進むことになった。
幸い、こちらの消耗はまだまだ大丈夫だ。
ストックしてある燃料用の水晶も、その力を多く使う覚悟で、一気に相手を削っていく。
「あの戦車もどきは出てこないわね」
「そりゃあ、あれが天井に当たったら崩れますよ、ここ」
出てこない方が楽でいいとは思いつつも、考えてしまう。
あの自爆前に、見えた中身。
そこにあったのは、明らかに何か制御をするための頭脳のような機械部品。
(私の記憶が偽物じゃないのなら、あれは……実在した制御装置のはず……)
ただし、自立思考可能なタイプのだ。
無人機の行動的には、組み込まれてはいないと思っていたそれ。
「? 急に圧が減った?」
「レーテ、ここ……空間が変化しました!」
とっさに周囲をスキャン。その結果に驚く。
ここは、外とは違う。
いうなれば、あの隕石の中。
次元収納の中とも言い換えられる。
「全力準備。制御は任せるわ」
「了解です。っ! 正面、大きな反応出ます!」
「こっちでも確認。あれは……JAM!」
無数の機材、資源の奥から出てくる人型。
明らかに気配の違うそれが、ライフルを構える。
とっさに横に飛べば、空間を引き裂く光の弾丸。
「正気!? あんなの、この場所ごとって……無人機に今、何を言ったの私……」
「来ますよ、レーテっ!」
驚くべきことに、空間の壁は攻撃に無事だった。
明らかに石の力、それもかなりの強さなのに、だ。
弾丸が当たった壁際には、無数のコンテナだろうものが置いてある。
もしかしたら、巨大な倉庫なのかもしれない。
そうなると、丈夫なののもわからないでもない。
「ちぃっ! 逃がさないってことねっ!」
迫りくる敵機。
全身真っ黒で、未塗装。
その手にした刃と、瞳だけがらんらんと輝いている。
「ブレード!」
口にすることで、自身も石の力を引き出しやすくする行為。
そのおかげか、こちらの振るうブレードは相手より数段太い。
「こんの……だんまりがぁっ!」
もちろん、返事や会話ができても怖いのだが、思わず叫びながら押し返す。
距離を取った相手に、今度はこちらから切りかかることにした。
広さは100メートル単位、高さも相応。
JAMでジャンプしあうぐらいは余裕という不思議な空間だ。
「地面の中に出ても、最悪どうにかするっ!」
「そのぐらいの勢いでやるってことですねっ! 右っ、細かいのっ!」
戦いに水を差すように、コンテナの陰から光が飛んでくる。
回避しつつ、そちらにもカウンター。
沈黙したのを確認する間、敵機も襲い掛かってくるのを防ぐ。
「違う、違うわね……カタリナ、こいつ……何か中身がいる!」
左手にライフル、右手にブレード。
一番慣れ親しんだ戦闘スタイルになりながら、敵機と向き合う。