JAD-189「変化する何か」
北の地で、私たちは狼のようなミュータントに出会った。
牙や毛皮が光り、銃撃を防ぐ不思議な集団。
さらに、リーダー個体は明らかに人工物を咥え、石の力を使っていた。
「犬は昔から人間の狩りを手伝っていたとか言うけれど……」
「ああなってるのを見ると、確かにと思ってしまいますね」
町中を、建物ぐらいの高さで飛びながらの戦い。
こちらに無人機たちの攻撃は集中し、空に弾丸の花火が咲いている。
町が大きい分、無人機の数もかなりの物だ。
お返しとばかりに、凍り付かせるための反撃をするが、いくらかは無駄になる。
狼たちが氷ごとかみ砕いたり、叩き潰しているからだ。
「すごい力ね。あれも石の力が影響してるのかしら」
「だと思いますけどね。測定したわけではないですけど」
カタリナの声も、どこか自信なさげだ。
無理もないといえば無理もない。
無人機も、こうしてると弱く感じるけど、十分火力はある。
生身では相手したくない、明確な殺戮者だ。
そんな相手が、ひしゃげるような攻撃は人間ではひとたまりもない。
「それにしても、妙に激しいわね、攻撃」
人間が住む場所を取り返す、とは違う勢いを感じる。
ここで飼われていたというわけでもないはず。
だというのに、まるで人間の復讐者のような感情を、リーダー格の個体に感じるのだ。
「無人機の集中箇所を確認、モニターに出します」
「了解。じゃ、これまで通りに、できるだけ凍らせて本体を……?」
発電施設だっただろう場所、そこに無人機が集まっている。
前と同じといえば同じ。
けれど、妙な感覚が私を襲う。
もやもやしつつ、銃口を建物に向け……それを見た。
「妙な装飾……え? どういうことですか?」
「さあね。でも、狼たちが妙に必死なのは、よくわかったわね。かたき討ちってやつかしら」
発電施設なのは間違いないが、車両も出入りする場所だったのだろうか?
その建物から出てきた無人機、その表面には布のようなものが巻き付いていた。
ズームするとよくわかる……毛皮。
(一体どういうこと? 無人機が、仕留めた相手の毛皮をトロフィーであるかのように?)
これが人間なら、わからないでもない。
獲物の皮などを装備とするのは昔からあることだ。
でも、無人機だ、あり得ない相手だ。
そもそもの姿自体が他と違う。
ほかの無人機は、四脚の動く箱みたいな相手。
前に見えるやつは、どちらかというと戦車。
ただし、砲塔は見える限りで8門ぐらいあるのだが。
「死角を無くしたタイプってことかしらね……」
地面に降り立ったブリリヤントハート。
その後ろに、狼たちが集まってきていた。
幸い、私たちに襲い掛かる様子はない。
「あっちもどっちが敵か、わかってるんですかね」
「かもね。ま、いいわ。アイツは私がやる!」
だめもとで外に向けて拡声器で叫び、ブレードを構えて飛び込んだ。
相手の射程距離で戦ってやる必要もない。
それに、この方が相手の射撃数は限られってっ!
「砲塔が移動したっ!?」
「回避成功!」
正面には2本しかなかったはずなのに、いきなり全部が移動し、集中した。
慌てて上空に飛び上がれば、さっきまでいた場所を砲弾が通り過ぎる。
なるほど、これは狼たちも返り討ちにあうわけだ。
「だとしてもっ!」
片腕でライフルを装備、アクアマリンで凍結用の光を打ち込む。
それは狙い通りに砲塔たちを凍り付かせる。
その隙に一気に急降下、ブレードでの斬撃を狙う。
「氷が砕けます!」
「一瞬あれば十分!」
相手のパワーはなかなかのもので、凍り付かせたのに砕くように砲塔が動く。
しかし、それは上空のこちらをとらえられる速さではなかった。
着地と同時に、ブレードが砲塔ごと戦車もどきを切り取る。
大きな音を立てて、中身が丸見えに……。
「トパーズ!」
叫び、石を切り替え。
とっさに岩を板のように生み出し、戦車もどきをぐるりと囲む。
まるで煙突のようになり、その中に戦車もどきという状態。
理由なんてない。なぜか、少し先が見えた気がした。
「レーテ!? くっ! 自爆ですかっ」
「そういうことっ!」
最初は全部ふさぐことを考えたけど、威力が逃げないことに気が付いた。
切り取って見えた中身に、妙な力の上昇を感じた私は、相手の目的を察したわけ。
すなわち、力の暴走からの自爆。
轟音と振動、そして壊れた岩の板。
さすがに結構壊れたけれど、それでも衝撃の多くは上空に抜けた。
「状況は?」
「損害は軽微です。問題ありません」
同じようなのがまた出てこないかと、警戒はする。
今回は追加はなさそうだ。
それどころか、無人機が遠巻きに距離を取り出した。
(今の感覚は、何?)
匂いというのか、普段のカンとは違う何かが自分の体を襲った。
不快ではなく、むしろどこか懐かしいような……。
「あ、いえ。1つ問題が。次元収納内部に何か反応があります」
「一体どういう……あの謎の結晶ね」
トラックごと収納したはずの空間からの反応。
どう取り出したものか、悩んだところで頭に浮かぶ手段。
「小さい結晶だけ出せる?」
「ええっと……行けそうです」
コックピット横すぐに、ごろりと結晶の一部が出てきた。
人の頭ほどの大きさの結晶。
それを中にしまい込み、適当に固定した。
「レーテ……」
「詮索は後。動力を止めるわ」
「了解です」
不気味すぎる問題を残し、ひとまずの問題を片付けに動くのだった。