JAD-186「人のいた跡」
『レーテにとって、ジュエリストとしての仕事って半分趣味ですよね』
「なあに、急に。ま、否定できないけど」
実際、活動開始直後から赤字になったことは数えるぐらいしかない。
ただし、それは余裕がというより、出費も少ないからとなるのだが。
この世界で目覚め、オリジナルの動力源を搭載したJAMであるブリリヤントハートを確保。
そして、カタリナの支援を得ることで形は整った。
そこに私のなぜかある記憶や経験からすると、大体の相手は余裕だ。
消費するのはせいぜいが弾薬と燃料代わりの石英程度。
雑品や衣服なんかは適当で……たまる一方だったわけ。
『知ってます? レーテのこと、救世主とか荒地の聖女とか呼ぶ人もいたんですよ』
「それは勘弁してほしいわね。そんな、聖人じゃないわ。欲望に従ったまでだものね」
『ええ、そうです。好きに生きてる結果ですよね』
苦笑しながらも、ぼんやりとモニターを警戒する。
トラックの荷台に、ほぼうつぶせ状態のブリリヤントハート。
運転はカタリナに任せ、無人の荒野……もとい、無人の土地を駆け抜ける。
機械アリの巣ができていた場所から離れ、トラックを次元収納から出し、機体は荷台へ。
いつもの長距離移動スタイルになり、移動開始した状態だ。
今回は、どこに何がいるかわからない具合はこれまででも最高なので、常に警戒が必要だ。
ずっとは難しいので、ひとまず起動させた状態ではあるが。
見える限りでは、無人ではあるけれど自然はあふれている。
「正面反応あり。獣ね。あれは……もとは犬かしら? だいぶ狼化してるような気もするけど」
『はい、体毛的にはペットだったものが何世代も生き抜いて、野生化した感じですね』
身近な物でいえば、ペットや家畜だったものが野生化した存在。
復活してきた自然の中を、それらが動き回っている。
探せば、ネズミの類も多くいることだろう。
それに、昆虫たちもたくさん繁栄しているはず。
『川には、もっとあれなのがいましたけど』
「いたわねえ。あれも上流から降りてきたのかしら? もともといたのかしらね?」
『さすがにあれは普段遭遇したくないですね』
最初は、川沿いに北上していた。
そこで見かけたのは、ミュータント。
大きさはかなりのものだった。
一見すると蛇のようだったけど、口が上下どころか、四方向に開くとんでもない奴だ。
たいていの場合、ああいうのは意外と臆病。
口を広げての威嚇に対して、数発の威嚇射撃に逃げていく。
(もっとも、子供や無防備に水辺にいると、襲われるかもだけど)
『あんなのがいたら、退治ぐらいするのでは?』
「それもそうね。となると、やっぱり北に何かあるのかしら……」
トラックの銃座も、どうにかして石の力によるものに交換しておけばよかったか。
そうしておけば、節約にもなる……そう思いつつも先に進んでもらう。
走りやすい場所をとなると、少し川から離れた土地を進むことになった。
以前、ここには人通りがあったのだろう。
そのうちに、自然の物ではない障害物が見えてくる。
事前の情報や、過去の地図を合わせると、集落の1つだ。
村から町へといったぐらいの規模だと思う。
「今はもう、自然に囲まれている、と……」
『柵の中に、動物が普通にいますね。無人機の残骸もあちこちに』
雨風を防ぐには都合がいいのか、動くものが出入りしている。
動く無人機はいないようだが、多くの残骸が残り、まるで先ほどまで戦いがあったようだ。
動くものの多くがもともといた家畜の類と、その子孫のように見える。
やはり、無人機たちは基本的に人間のみを敵対の対象としている。
襲われれば、獣やミュータントも戦うのだろうけど……。
この集落は、建物が激しく壊れている。
「無人機たち、どうやって人間とそれ以外を区別してるのかしら」
『見た目、だとすると車両に乗っている時に問題ですよね』
研究者ではないので詳しくはわからないが、何かあるのだと思う。
例えばそう、気配……みたいな?
「今考えても仕方ないか……」
『そうですね。どうします。この先のどこかで野営しますか? この跡地を利用します?』
幸い、こちら側には使えそうな遮蔽物は多い様子。
集落跡の隅に停車を指示。
念のために武装をして、機体から降りた。
同じく武装をして降りてきたカタリナ。
警戒しつつ柵を超えて中に。
水道設備か井戸が無事だと楽なんだけどなと思いつつ、散策。
どうしてかわからないけど、動く無人機はいない、そう感じるのだ。
と、気配。
「何か、走ってくる?」
「小さいですよって、鳥?」
荒れた町中。まるで爆撃を受けたかの様。
戦いがあったことを示す崩れた家屋。
そんなところどころから、何かが走ってきた。
高さは膝ほどもある、そこそこの大きさな鳥。
飛べない感じの……妙にキックが鋭そうな感じだ。
30はいるだろう数が、集まってくるのは少しびっくりだ。
「私たちに興味ありってこと?」
「みたいですね」
状況的に、ここが放棄されてからそんなに長い時間は経過していないようだ。
10年以内……というところか。
人間が来た、お世話をしろ!って感じに見えてくる。
「仕方ないわね。まずは水の確保をしてからよ」
「通じてるんですかね、それ」
真面目に考察を始めるカタリナをほほえましく見つつ、井戸なり水道なりを探すのだった。




