JAD-184「西へ東へ」
結論から言うと、大騒ぎになった。
それもそのはずで、機械アリがまた来るかもしれない。
その理由が見つかってしまったわけだ。
「掘り出された結晶は、私たちがもらっていいのね?」
「ああ。報酬とは別に、な。持っていると面倒そうだ。あんたら、旅してるジュエリストなんだろう? だったらそのほうが安全そうだ」
「普通のジュエリストは定住か、決まった範囲を行き来することがほとんどですものねえ……」
新しくこの場所の代表者となった面々は、一様に渋い顔だ。
当然だろうなとは思う。
(今も地下に、件の結晶が残ってますよと言われたら、ねえ?)
一度の波で残ったのは、まるで花粉のような細かな物。
機械アリが採掘に来るような結晶体になるには、何年かかることか。
だとしても、あるのとないとでは気持ちが違ってくる。
「あんたたちがでかい方の結晶を持って行ったのは、むしろありがたいぐらいだ。現地でそういうのを確保するのはジュエリストの特権みたいなもんだからな。補給のほうも問題ない」
ここが再開拓のための場所というのは、私たちもよくわかっている。
そこで仕事の対価となれば、持ち出している電子上のお金か、物資ぐらいだ。
今回は、燃料代わりの水晶結晶を、力の抜けた分と交換することで合意した。
再補充には、少し時間もかかるし、ね。
マネーカードの残高も、少し増える。
「私たちが特別というか、お人よしなだけよ。他のジュエリストにはケチらないように」
「わかってる。あんたたちほどに強い奴はそうそういないと思うがね」
念のために釘差しをしつつ、話し合いを終える。
地下での遭遇、その事実を告げる話し合いを。
問題は、私たちの今後だ。
こちら側の戦争状態とでもいうべきものは、無人機相手だと判明している。
ずっと復興に付き合うわけにもいかないわけで……。
JAMのそばに戻り、借りている椅子に大空のもと、座る。
「ひとまず落ち着きましたね」
「ええ、なんとか。やっぱり無人機には現地指揮官機ぐらいしかいないのかしら? どうにもとぎれとぎれだわ」
各地で無人機は見る……が、それだけだ。
小規模な拠点はあっても、大元の何かみたいなのは気配がない。
あるいは、この前の結晶が運ばれていく方向にはあるのかもしれないが……。
と、来客の様だ。
先ほど別れた面々の1人が、水筒のようなものを抱えて近づいてきた。
「よう、一杯付き合わないか? 酒じゃなくて、お茶だけどよ」
「なら遠慮なく。カタリナ、コップどこにしまったかしら?」
「さっき中にしまいましたね。取ってきますよ」
男の座るスペースを作り、手元に来たコップへと注がれるお茶。
漂う湯気に、一瞬地下での出来事が浮かぶ。
「なあ、アンタらは何か目的があるのか? 稼ぎたいだけなら、こんな旅をしないだろう?」
「そうね。風の噂でこっちがやばいって聞いてっていうのもあるんだけど、知りたくて」
「知りたい? あれか、世界の謎をってジャンルか?」
笑っちゃうでしょ?なんて自虐的に言えば、男は笑わないさと言ってくれた。
わずかに無言、お互いがお茶をすする音が響く。
「私ね、記憶がほとんどなくて。だから定住はなんだか、ね。それと、探し物」
「わからんでもない。俺たちの中にも、故郷が遠い奴も、もう戻ってもなって思ってるやつもいる」
「なるほど、アイツらのせいで……」
無人機自体は、かなり前から地上にいる。
それこそ、文明が滅んでからの長く続く戦いでもある。
こちらの土地では、長年戦い続けているのだろう。
そこにミュータントが絡んで、余計にややこしい世の中なのだが。
「ただまあ、住めばなんとやらってな。子供ができたら、子供にとっての故郷はそこだ。だったらその場所を守りたいってもんさ」
「そういうことね……いいんじゃない? 私は好きよ、そういう考え方」
その後も、そんな雑談を続けつつ何杯かお茶をいただく。
最後の一杯というところで、男は真面目な顔になった。
「ずいぶん前の話らしいが、北の空に光の柱を見たやつがいる。探し物はあれだろ? 前文明のどうこうとかそういうのだろう?」
「ご名答。わかっちゃうものなのかしら」
「アンタらぐらいのもんさ。謎のジュエリスト、その実力は別次元!ってなりゃあ、訳ありだろうさ」
どうやら、自覚している以上に他人からの評価はちょっとアレらしい。
見守ってくれているカタリナと苦笑しあってしまう。
「よし、借りは少しは返せたかな? 気をつけてな」
「ええ、そちらこそ」
水筒を手に戻る男を見送り、近いうちにまた旅立つことを決めるのだった。
西へ東へ、今度は北、ということだ。