JAD-183「漏れ出した過去・後」
「こっちは壊れた……宇宙船? 服装も妙に統一されてるわ」
「今の技術じゃ、宇宙船なんておとぎ話ですよね」
映像は見れないらしいカタリナに、機械アリたちを警戒してもらう。
ただ、いないだろうなあという感覚もある。
私は映像に集中しているというわけだ。
おそらくは、この星での人類の歴史そのものに。
なんとなく感じていたが、この星には人間は発生しなかったらしい。
「JAMたちをうまく使えば、宇宙に出ることは不可能じゃないとは思うけどね」
実際、ブリリヤントハートの飛空はいわゆる燃料の燃焼ではない。
あえて言うならば、その向きの風、力を作り出している、が正しい。
効率としては良くないの一言である。
(もともとが、宇宙でのコンテナ移動用に使われたんだものね)
石の力が最初に使われたのは、地上、大気圏内では力が足りなかったからだ。
今となっては、地上のほうが石が近くにある分、大きな力が発揮できる。
何がその違い、変化となったのかはわからない。
今の私が宇宙に飛び出したらどうなるか……案外、変わらず飛行できるかも?
それに、宇宙には星の、石の力が糸のように伸びて星と星をつないでるかもしれない。
今は、それを考えても仕方がないのだけれども。
「うーん、どうも、昔々からつい最近の光景まであるみたい」
「記録メディアってわけですか? 星規模の」
否定したいけど、否定できない。
時系列もバラバラだし、たまたま道端にカメラがありました、みたいな映像ばかりだ。
何の映像なのか、ろくにわからないアングルも多い。
共通しているのは、映像が写っているのは力の膜のようなもの、ということ。
「たぶん、そうね。意図した物かは別にして。こりゃ、確かにセンサーには引っかかるわね」
暖かい空気が、時折外に漂うのを温度センサーが見つけるようなものだ。
問題はこれがどうやって出てきてるか、だ。
「簡単に考えると、機械アリが掘っていたものが関係してるんでしょうけど……」
「今のところ、何もいませんね」
そうなのだ。拍子抜けとばかりの状況。
安全なのはありがたいけど、手がかりがないのも困る。
重機を使ってもこうはならないだろうという綺麗な坑道。
天井や先をあれこれ照らしながら進む。
「映像が増えてきたわね。敢えて見ないように切り替えないと前が見えないぐらい」
「確かに、力は増してますね」
「そうよね。あれ、少し右に偏ってる……」
飛び出す映像に誘われるまま、大きな坑道の右端へ。
そこにあったのは、穴。
何か埋まっていたのが、取り除かれた状態の穴だ。
「ここにあの結晶が?」
「にしては、大きすぎるわね」
謎の分かれ道だが、調査しないわけにもいかない。
今も飛び出てくる映像を避けながら進み続ける。
そうして、行き止まりに着いた。
「何も無いように見えますけど」
「ええ、何もないわね」
視界を切り替えても、ただの土の壁だ。
何もない、宝箱もない。
妙な脱力感が全身を覆うのも無理はないと思う。
「なんだったんでしょうね?」
「ほんと、なんなのかし……ら?」
ライトだけの灯りの中、苦々しい顔をした自覚がある。
と、そうして周囲を見渡した時だ。
力の波が、穴を通り始める。
「こ、これはっ!」
力、力だ。
石の……いや、星の力。
ここは、スターストリームが直接通過している!
「平気ですかっ!? 私でも感じるこの力の濃さ、レーテだったらっ」
「なんとか、ねっ。それより、飛び込んでくる映像のほうがキツイ……拒否できないの」
暖かい風に吹かれると、その熱からは逃げられないように。
私は今、星の力の波にのまれ、その中にある記録、記憶といったものにさらされていた。
無数の過去が、波からあふれ出して私を襲う。
痛みはないが、全部を意識してはだめだと直感的に悟った。
「流れに任せて……ふう……」
カタリナが体を支えてくれるのを感じながら、とにかく力の波がずれるのを待った。
短くない時間の後、力の波がずれたのを感じ、座り込む。
すっかり息が上がり、全力で戦った後の様だ。
「機械アリが巣穴をいくつも作ってたのは、これが目当てだったのかしら」
さっきまで何もなかった壁に、小さな小さな結晶がある。
検査はしていないけど、おそらく運び出された謎の結晶。
長年、地下を通った星の力が結晶となり、埋まっていたのだ。
「世界は謎に満ちてますねえ……」
私が回復するまで、2人でライトに照らされる結晶の星空を眺め続けるのだった。




