JAD-182「漏れ出した過去・前」
「鉱山に幽霊が出る?」
「幽霊かどうかは別にして、なんかいるって話だ。気になるなら、少しは出せる」
機械アリの採掘跡、巣のそばに陣地を作り始めてしばらく。
開拓し甲斐があるとばかりに、小規模の活動が始まった。
私とカタリナは、護衛や手伝いとして、滞在中。
そんなある日、顔なじみになった一人から、こんな話を聞いたのだ。
曰く、斜面や穴に動く影がある、と。
「行って見てくるだけだったら、お使いみたいなもんだけど……あいつらがいるかもしれないとなると、二の足ってやつね」
「最低限のセンサーは設置してあるんですよね? 見張りもいるはず。そっちはどうなんです?」
「それなんだがな、夜間だけ反応が微妙にあるんだが、あるとも言いにくい。見張りが目撃してないんだ」
「どういうことよ……」
気になる展開に、疑問を顔に張り付けながらセンサーの数値を確かめに行くことに。
本当に、ささやかな報酬だが、大事だ。
ちなみに、小規模なら多くの人間が石の力を扱える。
例えばそう、かつての文明でいう電池のように。
今回のセンサー、その記録装置も石の力を使うものだった。
「ここが昨日の夜、妙な反応が出てるところだ。何か動いてるように見えるが、見張りがライトで照らしても何もいなかった」
「確かに、何か数値が出るだけの存在がいるみたいですね。照らされてるはずなのに……」
「だけど、昼間は出てこないんでしょう?」
思わずそう聞いてしまう。
私の目なら、石の力、星の力の流れを見ることはできる。
逆に、この程度のセンサーだとわからないものもある。
不可視の存在……であるならば、被害が出てないのも変な話だ。
がれきの動きや、風が変な影響を……と考えるのは最終手段。
(何かいると思っておいた方が、死なない、これは大事)
「早速今晩にでも、ちょっと見てみるわね」
「よろしく頼む」
期待しないで、と手をひらひらさせて別れる。
ただでさえ、何があるかわからない状態なのに、ストレスだろうなあ。
ブリリヤントハート脇のテント(分けてくれた)に入り、一息。
もうすぐ空が夕暮れとなるのを考えると、照明の準備はしたほうが良いだろう。
「何がいるんでしょうね」
「何もいないんじゃないかなあ……」
願望を口にするも、カタリナも首を振る。
そうよね。何か、いるんでしょうね。
さすがにJAMを持ち出すほどではないように思う。
第一、ブリリヤントハートで降りて、斜面や坑道を崩してもいけない。
「ロープとかだけ借りて、行きましょうか」
「わかりました。早速準備しましょう」
そして、一通りの準備をして、気が付けば夜。
食事等が終わったら、もう見張りのための灯りと星空だけだ。
ほかは、漆黒とは言わないけど、暗い。
「……来た」
センサーの数値を見る場所で、その変化を確認。
外に飛び出し、石の力を使ったライトで斜面を照らすが、何もいない。
試しに、視界を切り替え……って、あれは!
「カタリナ、行くわよ。2人で見てくるわ」
「了解した」
「一応、武装のチェックはしながらですね」
頷き、手持ちの武装、今回はブレードのみだが、を確認する。
跳弾が怖いので、実弾は使う予定はない。
比較的歩けそうな斜面をゆっくりと降りていく。
すぐ後ろのカタリナが、背後を警戒だ。
「それで、レーテ。何がいました?」
「ええ、そうね。人と、動物と、色んなのが」
「……はい?」
ポカンとするなんて、やっぱりカタリナも成長している。
呆けるAIなんて、なかなかないと思うわ、うん。
歩みは止めず、前に。
「幽霊といえば幽霊にしか見えないわね」
「私には、何か力の気配がうっすらとあるようにしか見えませんけど」
きょろきょろとするカタリナには、見えていないようだ。
となると、またこれは私の設計がらみかな?
「スクリーンみたいに、石の力があちこちで膜を作ってる。そこに、写ってるのよね。ぼやけてて、微妙だけど」
おそらくこれは、石というよりも星の、スターストリームの力だ。
蒸気に光があたってるような感じ、と言えばわかりやすいかもしれない。
「そういうことですか……」
頷き、大きな坑道の穴へとたどり着く。
機械アリが一番出てきた場所だ。
穴の前に立った途端、はっきりする。
膜というか力の靄は、この中から出てきてると。
「明るいときじゃダメなんですか?」
「夜だけっぽいわね。それに、この中じゃ昼間でも一緒よ」
警戒と、ライトの光量を上げつつ穴に体を入れていく。




