JAD-180「火事場泥棒を追う」
前回の更新が10話ほど間違えていたので、ご注意ください。
「レーテ、ひとまず大丈夫みたいですよ」
「……そう? ならいいけど」
ライフルを構えたまま、上がった息を整える。
なんていうか、大声を延々と出し続けたような爽快感と疲労。
じっとりと、全身から汗が噴き出ている。
「兵士アリ、将軍アリの減少を確認。無人機も、なぜか撤退していってます」
「喜んでいいのか、裏に指揮官機がいるだろうということで悩めばいいのか……」
これまで、目的を達成するまで止まらない象徴だった無人機。
それが、途中で戻っていくというのだから、謎が深まる。
女王個体を倒した上に、多くの兵士アリを倒した存在だというのに、私は今、安全だ。
予想では、残存する兵士アリたちが群がることすら考えていたのだけどね。
「女王個体は1機だけだったんでしょうか?」
「状況を見るに、そうでしょうね。もし予備機がいるのなら、こうはならないわ」
ブリリヤントハートの周囲に転がる、物言わぬ機械の残骸を蹴飛ばす。
さっきまで命を奪うべく活動していたとは思えない。
兵士アリも、採掘と運搬をしていた口部分が半ばほどで折れ……あっ!
「無人機の撤退方向を確認! 奴ら、持っていくつもりだわ!」
「了解! 結果出ました。北上しています!」
周囲に無線で、アリのお宝を取り返してくると叫び、飛翔。
高度を取る時間ももどかしく、斜めに飛べば視界一杯に荒野が広がる。
その中に、明らかに異質な黒めの線。
無人機たちの作った列だ。
「中央、コンテナっぽい物があります!」
「こっちでも確認したわっ!」
さっきまでの戦いで、結構力は消耗した。
同じ規模の戦闘はしばらく無理だろう。
けれど、多少どうにかするぐらいは、問題ない。
「アクアマリン! シュートっ!」
舞い降りながら、コンテナごと無人機を凍らせる。
勢いあまって、結構な範囲を凍り付かせてしまった。
地面ごと凍り付いたことで動きが止まる無人機たち。
前方の無人機はそれに気が付かず、北上を続けていた。
対して、コンテナより後ろの無人機は……。
「こいつらも、命令以外実行できないってわけか……」
「どうにか運ぼうとしてますね、これ」
連携して攻撃してくるでもなく、あきらめるでもなく。
単に障害物があった時のような動きしかしてこない。
このことから、相当遠くからの命令だとわかる。
単純な命令程、実行力は強くなるからだ。
「ひとまずはっと……」
適当に無人機たちを撃つ。
そして、コンテナの周囲だけをブレードで切り裂き、運び出した。
「中身は何かしらねっと……」
少し離れた場所で、まだ凍った側面をすぱっと切り落とした。
音を立てて倒れるコンテナの壁。
その中身は……クォーツ、水晶?
持つこともできそうな、1メートルほどの柱状の塊たち。
「何かしら、少し変な感じが……カタリナ?」
「おばあ様と探った施設、その中の資料に近い物があります。星の結晶、いうなれば、力が結晶化したような代物らしいです」
ひとまず、コンテナ1つ分に目いっぱいある結晶体は次元収納に入れてしまうことにした。
外に出しておくと、また無人機が来そうな気がしたのだ。
不思議と、しまい込むと変な感覚も消えた。
これなら、無人機に見つかることもなさそうだ。
「何なのかしらね、あれ」
「確かなのは、あれだけ機械アリが大規模に採掘して、あの程度ってことですよ」
それは、そうだ。運び出されていなければ、だが。
でも……鉱山と呼べるような大規模の採掘、そして機械アリが何かを運び込んでいたのは事実。
もし、長年の採掘とあれこれの結果がコンテナ1つ分しかない鉱物、となると……。
「JAMの動力に使えるかしらね?」
「かもしれませんね。少なくとも、他のクォーツのように燃料とするのは避けた方が良いかと」
行きと比べて、ゆっくりと地上付近を飛行しながら、そんなことを話し合うのだった。




