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JAD-017「大きすぎる力はいらない」



「手ごろなサイズにカットしたい、と」


「ええ、そういうことになる」


 翌日、役場の人間は怒ることなく面会に通してくれた。

 一方的に就寝を宣言したのは私だけど、それでもよかったみたい。


 世界が、星の文明が一度駄目になってしまったこの世界。

 政府と呼べるようなものが各地に点在、ある意味有力者が好き勝手しているこの世界で、だ。


 面会相手の男性は、地域を治めるという点ではなかなか珍しい人のようだ。


「黙って私には、こういうものがって適当に言っておけばよかったんじゃないですか?」


「君は優秀なジュエリストだと認識しているのでね。何が出たかを知るか知らないかで悩むよりは……」


 知らせて、引き込んだ方が話が早い、つまりはそういうことだ。

 自身の信用と実力が全てのJAM操者、ジュエリスト。

 名前を売るのは、生きるためであり、身分証明でもある。


「よくわかりました。確かに、これはばれたらまずい。世界征服をたくらむのでなければ」


 周囲には何人もの護衛、そしてその人らを含めた視線を集めるのが……テーブルの上にある。

 念のために台車で運ぶ、巨大なサファイアの原石、しかも適性ありあり、だ。

 離れていても、それがよくわかる。


 なにせ、研磨する前からかなりの透明度だ。


「しっかり研磨できるかどうかも怪しい上に、どこに狙われるかわかったものではない。だったら、使いやすい大きさ、数にして戦力増強としたいのだよ」


「適性ありの石を加工できるのが、ジュエリストになれる秘密っていうのは悩ましいですね。ではさっそく」


 用意された工具を使い、カット場所を見定めていく。

 宝石側の、動力に使えるかどうかの適性は、専用の人と機材があれば簡単にわかる。

 人が、機材と石を介して力を引き出せるかどうか、なのだ。


 つまりは、それが出来る人は大なり小なりその重機を操縦でき、高じればJAMも扱える。

 その素質がある人は、案外少なくない。

 例えばそう、野盗のようにアウトローになるぐらいの数は、いるのだ。


「まずはこのぐらいに……」


 記憶にある宝石の研磨、加工で考えるととんでもないことをしている自覚がある。

 まるで、硬いフランスパンを切るかのように、原石を削っているのだ。

 何度も刃を入れ、結果として投石に使えそうなぐらいの石がたくさん出来上がる。


 体中を、JAMで宝石の力を引き出した時のような脱力感が襲う。

 目の前のお偉いさんが、私に加工を頼んだ理由がこれだ。

 並のジュエリストでは、数回カットが限界じゃないだろうか?


「残りはどのぐらいに?」


 少しは疲れたけど、まだまだいける。

 そのことに、相手のお偉いさん……町長と護衛の人たちの驚きが見えた。


「お見事。では次にこのぐらいで……報酬分として1つ、優先で研磨とカットをさせよう」


「まいどあり」


 結果、お手頃な大きさになるように切り分け、自分には小さくする前の物を貰えることになった。

 本当は早めに街を出る予定だったけど、カインの帰りもあるし、そんなものかな。


 結局、それからは目立った出来事はなく、平和に過ごせた。

 明日にはカインがタンセに帰る予定というところで、町長からは届け物だ。

 深い青の、大きなサファイア。


「結果的には、大儲け、かしらね」


「予想外の鉱山でした。海も変動していますから、地域情報が当てになりませんけど……」


 カタリナが言っているのは、別の星でもある地球の情報だ。

 大体、こういう場所には宝石が眠っているのではないかという探索の当てになる。

 もっとも、かつての大戦で環境が大きく変わったこの世界では、何とも言えない。


「なんにせよ、機体の調整とトラックの整備、ね。いい仕事があるといいのだけど」


「レーテなら何でもできますよ。篭絡以外」


「ちょっと、そういう言い方はさあ!」


 確かに、私はそういった経験はないから、篭絡は出来ない。

 単純に仲良くなる以外で、男性と手が触れるのも出来れば遠慮したいのだ。

 大丈夫なのは、それこそカタリナの義体だとか、本当の女性相手で……。


「……稼ぎがあれば、義体も買えるものね。買い換えたら、覚悟しなさいよ」


「私なんかでいいんですか?」


 からかいの声から一転、しおらしい声になるカタリナ。

 そんな彼女に、アナタだからいいのよ、なんて私は言うのだ。


 少ししんみりしてしまい、どう切り替えたものかというところで、何かを感じた。


「探査開始」


「え? あ、はい! 広域探査開始……少し先に、獣の集団が?」


 脅威かというと難しいけれど、少し先で狼型の集団が走っているようだ。

 このままだとかち合う……まあ、散らすか。


「こちらラストピース。前方に獣の集団を確認、先行して散らす」


『了解。よろしく頼む』


 JAMにとってはなんでもない獣でも、生身やトラック程度だと万一がある。

 速度を上げ、トラック集団から距離を取ったところでカメラでも狼たちを確認した。


「せっかくだし、サファイアの実戦ね。貴石変換開始」


「変換開始……出力安定、どうぞ」


 ストックのサファイアより、かなり増した出力に微笑みつつ、銃口を狼たちのすぐ横に向ける。

 当たればカッチン、氷像の出来上がりな光線銃だ。


「威嚇で逃げてよね……シュート!」


 青い光が、陽光の元で光り輝く。

 それは狙い通りに狼たちのそばに着弾、驚いた狼たちが山の方に去っていく。


「やっぱり実体弾より、コストがないのがいいわよね」


「それが出来るのはレーテぐらいですよ。普通は、すぐ疲れてしまうんですから」


 そんなものかな?と思いつつ、カインに合流、無事にタンセにたどり着くのだった。



 



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