JAD-178「乱戦の始まり」
戦いの始まりは、人間からだった。
最低限の戦力を残し、集まった戦力で一気に移動。
どうせいつか見つかる、ならば……というわけだ。
そうして、たまたま巣穴から出てきていた兵士アリは即座に仕留める。
無言で、大地に沈む兵士アリが仲間を呼んだ様子はない。
「ほかの詳細な地図はともかく、この辺りだけでも提供した甲斐はあったわね」
「予想より、奥の方で遭遇できましたね」
まだまだ兵士アリは少ないようで、攻撃は散発的だ。
それでも、明確に敵が出てきたことでこちら側の士気は上がっていく。
殺意、とも言い換えることはできるんじゃないだろうか?
戦争、争いが悲惨なのは変わらない。
けど、感情の無い相手との戦いはより悲惨に思える。
「もしかしたら、向こうも何かを感じ取ってるのかもね」
「まさか、振動センサーでもあると?」
答えず、口だけはゆがませる。
正直、わからないというのが正しい。
何があってもおかしくない、そう思っておいた方が良いように思うのだ。
似通ってる部分はあるとはいえ、相手は宇宙からの来訪者、別の文明なのだから。
『警戒しつつ、進もう。弾はちゃんとこめておけよ』
「緊張してる感じね……無理もないか」
無線で聞こえるこちら側の部隊長の声は、雑音交じりでもわかる緊張具合。
倒せているとはいえ、生き物のような相手が大きく、そして数も多いとわかっているからだ。
一体どれだけの数を倒すことになるのか……。
「もうすぐ、視界が開けますよ」
「そうね。私たちも準備を……何?……ざわめき? 飛ぶわ!」
私以外も、もしかしたら感じたかもしれない。
急に、何か気配というか空気が変わったのだ。
断りを入れつつ、飛翔。
といっても、木々よりは上という低空だけど……っ!
「なんてこと……!」
「別方向で戦闘が? え、これは!」
データを確認したカタリナが戸惑うのも無理はない。
なんと、機械アリの巣穴がすでに戦場になっていた。
そして、その相手は……この前まで相手していたタイプの無人機だ。
仲間割れ? いや、それにしては……。
『どうした? 何が起きている?』
「見たままを言うわ。機械アリが、無人機と喧嘩してる」
『……なんだと?』
道理で、こちら側には全然機械アリが来ないはずだ。
散発的過ぎるのが怖いぐらいだった。
無人機たちが来たのは、川の上流側、つまりはまだ人類が取り返していない領域だ。
そこはわかる、わかるのだが……。
「様子を見ながら、機械アリの殲滅を優先、でどうかしら?」
『ひとまずその方向で行こう。無人機は相手の仕方がわかるが、機械アリはな……厄介すぎる』
まだ戸惑いが残っているが、話はまとまったようだ。
ゆっくりと、人間側は移動していく。
無人機たちとは反対側にという位置関係へ。
「一体どういうことなんでしょうね。派閥、でしょうか」
「そういう感じかしらね? ほら、企業でもみんな同じことをするわけじゃないし……」
言っていて自分でも苦しいが、そうとしか考えられない。
さすがに、侵略者Aと侵略者Bがいるというのを考えるのは、大変すぎる。
そんなことを考えつつ、警戒はしながらも様子見。
無人機と機械アリの戦いは、激しさを増している。
「機械アリの数、予想以上ね」
『まったくだ。射撃で応対する無人機に、数で押し寄せる機械アリ。とんでもないな』
理想はこのまま痛み分け。
両方が消耗したところで、機械アリ側を先に……でもそううまくいくだろうか?
幸いにも、さっそくお互いに戦力が一時的に減ったようだけど、さて?
「突入準備、しますか?」
「うーん……まだ奥に大量にいそうなのよね。それに……」
言葉の途中で、巣穴の底からやはりというべき機械アリの増援。
また戦いが激しくなるかと思ったが、視界に飛び込んできたのはとんでもない物だった。
「一気に上昇! ライフルは高出力から、散弾をイメージ!」
「りょ、了解!」
周囲に砂塵が舞うのもお構いなしに、飛び上がる。
と同時に、穴の底にいた機械アリが……飛んだ。
ジャンプではなく、フライ、だ。
「羽アリっ! 落として見せる!」
「ロック補助は任せてください!」
まずは十数体。
重なるロック音を聞きながら、トリガー。
まばゆい光が細い弾丸となって飛んでいく。
幸いにも、羽根アリの強度は低いのか、あっさりと迎撃。
「よし、落とせる」
「レーテ! まだ来ます!」
「そんなもの……よね! 上空より地上部隊へ。上はやる。支援と地上侵攻をよろしく!」
『了解した。飛びあがる前にできるだけ倒して見せるさ』
頼もしい声を聞きながら、空に上がってくる羽根アリをにらむ。
羽根アリたちは、攻撃のあれこれを設定されているらしい。
集団が、脅威としてこちらを認識したのか迫ってくる。
「ちょうどいいわ。やれるもんならやってみなさい!」
気合を入れるべく叫び、手に力を籠める。
久しぶりの空中戦が、始まる。




