JAD-177「一丸となって」
「先によく画像を見ておけば、というのは都合がよすぎるかしら?」
「改めて見てみれば、ですよ。わからないものはいくらでもあります」
わかっていても、後悔の混じったため息が何度も出る。
その理由は、衛星からの画像にあった。
メテオブレイカーからもらった情報の中にある、星中の映像。
その中に、今回の巣穴周辺もあった。
その画像をよく見ていくと、確かに川向うには穴らしきものが。
視界には入っていたかもしれないが、かつての争いの跡だと思ってしまったんだろう。
ちなみに、ブリリヤントハートのコックピット内部で、邪魔の入らないように確認中だ。
「それもそうね。さすがに、この画像を配布するのはどうかと思うし……うん、切り替えましょ」
「ええ……でも、複数ある理由は本当のところ、資源の枯渇なんでしょうか?」
「確かに、そこまで深い感じがない穴もあるわね」
真上からなので、正確なところはわからない。
けれど、小さいのもあれば、大きいのもある。
決まった大きさになったら放棄、というわけでもないようだ。
「運び出されてるだろうと考えると、ここに何が埋まってたかは確認は難しいわね。次、機械アリの確認をしましょう」
「了解です。種類はおおよそ2種、小型の一番多い物、兵士アリと仮称。次に二回りほど大きい重量級、こちらは隊長アリと仮称。状況からして、もう1つ上と、女王個体がいるとは思うんですが……」
「どこまでアリそのものな動きをするかよね。もしかしたら、ああは言ってたけど女王個体はいないかもしれない」
戦いの前と後で、それぞれ撮影した相手の写真。
何枚ものそれを見ていくと、まるで映画でも見ているかのようだ。
冗談のような巨大な生き物、そしてその数。
組み立てられているとは思えないような、独特の形状。
「いつぞやのように、ミュータントを改造してるかと思ったけど、そうでもないか……」
「どうします、それで」
「どうもこうも……火力で押し切るしかないわね。下手に潜って、囲まれてもどうしようもないわ」
勝算は、ある。
運び出すということは、使いたくない資源ということだ。
となれば、後はリソースの勝負。
正面からとなれば、グリーンダイヤの活躍のしどころ……だといいな、うん。
「実際、地下で崩れてなんてのは嫌ですもんね。わかりました。そのあたりで計算しておきます」
それから数日は、動くことはなかった。
ほかの町からも、戦力を借りるということで周囲は忙しそうだ。
私自身は、機械アリの偵察が来ていないか見回るぐらいだ。
途中、町でライアンを見かけたが、青年たちを率いて元気にやっているようだった。
(頑張りなさい、見守ってるわ)
勝手な考えかもしれないが、私はただの旅人、定住する人間じゃあない。
あくまで、臨時だと思ってもらわないと、ね。
「レーテ、今日はどうしますか」
「JAM用の武装を、ちょっといくらか収納しておこうと思って」
「予備にですか? なるほど……」
少し思うところがあり、手持ちの武装を複数買い込むことにした。
普段あまり使わないお金だ。
電子上の数字は増える一方である。
少しぐらいは、そう思ったのだけど……甘かった。
「ああ? 人間のハンドガンまで品薄だよ! みんな武装してるさ」
「嘘でしょ……」
思った以上に、この地方の人間はタフらしい。
言われて見渡せば、確かにそこらじゅうの人間が武装している。
なるほど、それだけ本気、らしい。
「どうしましょうね……飛んで戻って、生産してもらいます?」
「うーん、どうしようかしら。あっちはあっちで作ってると思うのよね」
店の前で、悩んでいた時だ。
目の前に、急に車が止まる。
コンテナを複数積んだトレーラーだ。
「なあにしけた顔してんだい」
「あら、おばあ様」
声をかけてきたのは誰であろう、旧文明の遺産らしい建物に一緒に入ったおばあちゃんだ。
助手席に乗ったままだけど、元気そうだ。
「JAM用の武装を探してたんですが、見ての通りで」
「当てが外れたってやつよ」
「なるほどねえ……だったら、後ろのを使いな」
言われ、車の荷台に向かうと……巨大なコンテナが複数。
(かなりの大きさね。これってもしかして……)
「町の外にこれを設置して使おうと思ってたんだよ。これなら私でもいけるからねえ」
運転手の若者の手を借りて降りてきたおばあちゃん。
車椅子に乗ったまま、器用に荷台のスイッチを操作し……コンテナの中身はJAM用の武器だ。
やはり、かなりの実力者なのか、本気だ。
戦えるなら、最後まで戦う、そんな表情。
「私で、いいの?」
「いいも何もないさ。持っていきな。その方があいつらを多く倒せそうだ」
頷き、お礼を言ってブリリヤントハートを止めてある場所まで移動してもらう。
そして、都合4丁のライフルを譲り受けるのだった。
作戦開始は、数日後のことだった。