JAD-176「因縁の相手」
「敵機……敵機でいいですよね?の蒸発を確認!」
「蒸発、か。やっぱりとんでもないわね」
普段使っているダイヤも、結構な出力を誇る石だ。
それと比較しても、グリーンダイヤは大人と子供、いや、軍人と一般人、だろうか?
ダイヤも十分強いのだけど、桁が違う。
手加減した一撃は、地面をえぐりながら機械アリに迫り、力を発揮したようだ。
「増援、来ます。危機感はないんでしょうか?」
「無いんでしょうね。あるのは、資源の有無とかそういうのなんでしょ」
森から機械アリは、まったくひるんだ様子もなく出てきた。
ライフルを構えて待ち受けるこちらに、警戒するそぶりすらない。
(どういうこと? さすがに障害物とか、そういうのに対応ぐらいするでしょう)
そこまで考えたところで、気が付く。
この機械アリたちは、それすらも与えられていないのだと。
「命令に、障害の排除が入ってないんだわ……」
「……ええ? どういうことです?」
「仮に、消耗して戻ってきたとしたら、それ自体が評価であり、データなのよ。手を出さなければ何もしない相手がいるか、今の私のように手を出す相手がいるのかも、見極めるために」
限りある命として考えたら、とんでもない手法だ。
生産され、事実上無限にという機械アリだからこそできる方法。
「とはいえ、放置ってわけにもね」
仕方なく、しばらくの間は攻撃を続ける。
そうしてるうちに、増援は尽きた。
おそらく、定期的に一定量で行っているんだろう。
「戻りましょ。私たちだけじゃ、手が足りないわ」
「一体、どれだけいるんでしょうね」
「そこよね……」
放っておくと、大陸中が奴らの巣になるかもしれない。
その前に、他のミュータントとかと争うかもしれないが。
どういった手段を取るべきか、悩みつつ空を飛びながら帰還。
行きはあちこちに移動しながらだったので感じなかったが、まっすぐだとそんなに離れていない。
(逆に言うと、猶予もあまりないってことよね)
機械アリの大きさ、巣の状況からして、年単位とは思わない方が良いだろう。
勢いよく町に舞い降り、すぐに責任者のいるだろう場所へ。
依頼の結果を聞いてくる相手に向かい、できるだけ真剣な表情を意識して口を開く。
「信じられないようなヤバいやつが、いたわ」
「……話を聞こう」
建物全体、そして町全体がざわめきだすのに、そう時間はかからなかった。
でも、ついに来たか、という言葉が飛び出すような状態だった。
思ったよりも落ち着いた様子に、驚くぐらいだ。
「あの機械アリのこと、知ってるの?」
「一応、な。あいつらは海を越えてこられないらしいんだ。大きな川も。そのはず、だったんだ」
話すリーダー格の顔には、後悔。
話を聞いていくと、もっとなくなった町と交流していれば、ということだった。
確かに、川向こうの巣穴を考えると、何年も前からああだったんだろう。
そして、ついに川を超えてきた。
「今さらというやつね。それにしても、私が目撃した規模だと、耐えきるのは難しかったと思うんだけど」
「ああ、そこも問題だ。川向うに巣穴があったんだろう? あれは、もう何十年も前の物で爺さんたちが相当撃ち込んだらしい。それに、ここ10年見てないんだよ」
「10年は見ていない? じゃあ……」
「そうだ。ずっと眠っていた女王が、目覚めたんだ」
瞬間、部屋を沈黙が支配した気がした。
嫌な現実が、突き付けられたといった感じ。
「なるほどね。アリを模したか何かしてるなら、そのシステムも一緒、か」
「前は、川を崩して水を引き込んだらしい。全滅はできなかったんだろうな、つまるところ」
(川の丸い部分はそれね……そのあとは出てきていない、と)
しつこいというべきか、根性があるというか。
機械相手に根性というのも変な話かな?
「いずれにせよ、ありがとう。戦力を集めて、潰す」
「わかったわ。その時はぜひ」
笑みを浮かべて手を出せば、当然、最初から数に入ってるよ、なんて返ってきた。
力強く握手を交わし、話を進める。
結果として、しばらくは町で待機することにした。
「戦力が集まり次第、全力ですか」
「ええ。無人機だけど、少し生産が違うみたい」
設備を止めない限り、延々と生産してきた相手とは違うようだ。
最終的な目標が、異なるのだろうか?
もしくは……。
「あの機械アリ、全部機械なのかしらね。こう、ミュータントを取り込んだんじゃないかなって」
「レーテ、それはある意味で……進化してるということですよ?」
元の住民か、外からの新顔か。
機械アリの正体は、わからない。
嫌な予想、その意味するとこをカタリナに告げられ、一人顔をしかめるのだった。




