JAD-175「星のへそ」
「これじゃ、地面にあいた星のへそね」
「無人機たちはへそのごまですか? なんか嫌な感じです」
カタリナの冗談めいた声を聞きながら、映像に集中する。
町があるはずだった場所に、大穴が開いている。
比較的そばにあるはずの川は、大きく捻じ曲げられていた。
「あの川も無人機たちがやったんですよね。なんでまた……」
「よっぽどあの場所に何かあるのか……」
地下に、貴重な何かが埋まっている?
あるいは、希少な鉱石が採れる?
「単に偶然って可能性も十分あるわね」
「それだけであんな穴掘りを?」
「そ、指揮官みたいなのがいないんだもの。そうなったって不思議じゃないわ」
これまでの無人機たちの動きを思い出してみる。
落ちた場所で、力尽きるまで攻撃を繰り返す奴。
宇宙へと資源を撃ち出そうとした奴。
特定の場所へと移動を繰り返し続ける奴。
そのほとんどは、同じことしかできない。
範囲内では多少柔軟性はあるけど、あくまで目的のため、だ。
「レーテ、当たりでもあり、外れでもあるようですよ」
「どういうこと?……なるほど、一応鉱山資源があるんだ」
映像の中で、運び出されているものを見る。
土砂ばかりのように見えて、ここからでもわかる光の反射。
これだけの規模で採掘してもなお、地下には資源があるらしい。
(もしかして、この場所で農業が盛んだったのは……石の力が地上ににじみ出ていた?)
ゴーレムが、自然を回復させているシーンを思い出す。
あれの大規模かつ自然そのままのことが起きていたとしたら?
だとすると、偶然最初の無人機がここを掘り始め、今にいたるわけだ。
運がいい個体なのか、そうでないのか、評価する存在は私たち以外、いない。
「このまま射撃……は無理ね。埋もれた後、地下空間を広げてなんてごめんだわ」
「そうですね。暮らしてて、いつか地下から出てくるかも、は怖いと思います」
これに関しては、カタリナと完全に考えが一致した。
その理由にはいくつかあるけれど、そのうちの1つは、無人機の姿だ。
この星の生き物に学んだのか、もともとそういう設計だったのか。
ごつごつとした姿だけど、間違いない……アリだ。
「顎で地面や岩を砕き、掘る。集団の強さを活かして運び出し、か」
模しているのなら、酸の攻撃もしてきそうである。
生身でいきなり戦わせるのは、正直無謀だろう。
第一、結構大きい。
小さい個体でも、車ほどはありそうだった。
「観察はこれぐらいにして、一度戻りましょうか」
「人類で何ができるかはちょっと悩みどころですね……あ、見てください」
映像が切り替わり、写ったのは穴の外。
獣道のように細い道が森をつっきり、よくわからない山のような場所に続いている。
掘り出されたものが、順番に運び込まれているのがわかる。
「本命はあの中かしらね? 下手にたたけないけど……んん?」
今度はさらに別の場所。
集団から離れた場所へ、機械アリが移動している。
その姿はまるで、家出するかのようで……いや、これは……。
ふと、映像をもとの距離に戻し、川を望遠で見る。
そこに見えたのは……。
「戦闘準備。はぐれてる連中を残らず消すわ」
「レーテ? 急に何を?」
「あいつら、次の場所を探させてるわ。少しでも削っておきたい」
そう。よく見ると川の途中に丸い部分、そう……巣穴のような場所だ。
さらに、川の向こう側には砲撃で崩れたような穴の跡。
あいつらは、一通り掘った後にさらに拡大すべく次を探しているのではないか?
放っておけば、地面は穴だらけだろう。
「グリーンダイヤの性能を確認しながら、確実に、ね」
「了解です。思った以上に消費も大きいですよ、これ」
確かに、と頷きつつ高度を下げていく。
飛び降りてもけがはしないかなという高さになるころには、相手も見えてきた。
冗談のような、機械のパーツで出来た巨大アリ。
大きさ以外違いの無い機械アリへと、銃口を向ける。
「まずは一発、ごちそうするわっ!」
ないはずの手ごたえを感じながら、ほのかに緑色を帯びた閃光を放った。




