JAD-174「無限回廊」
町を出てしばらく。
荒野、林、森と自然を駆け抜ける。
まっすぐではなく、右へ左へ、寄り道しながらだ。
「また崩壊した建物……時折あるのは、最近のですかね? 昔の文明のですかね?」
「どうかしらね。この状況だと、思ったより朽ちるのが早そうよ」
休息がてら、見通しのいい場所で停車。
トラックの車内から見える地面には、道路の跡。
そう、跡、だ。
「やっぱり……カタリナ、衛星からの画像を出して」
「はい。メテオブレイカーにもらったやつですよね?」
頷き、フロントガラス付近に投影される画像を眺める。
さすがはかつての文明による衛星画像、鮮明だ。
だとすると、だ。
「ほら、たぶんこの辺りなんだけど……」
「一面の荒野、ですね」
そう、わかったきっかけは……川だ。
多少は浸食等で変化するといっても、大まかな配置はすぐには変わらない。
出発した町そのものは画像にあるから、間違いはないはず。
「異常なほどに、繁殖してるわ」
「明らかに自然に飲み込まれてますよね」
そうなのだ。無人機たちが掘る価値がないだろう場所は、自然の力にあふれている。
その影響は道路にもおよび、トラックが時々揺れるほど、地面は変わり果てている。
問題は、この地方が無人機の勢力下におかれたであろう期間は、ここ数年のはずなのだ。
「もしかしたら、なんだけど。宇宙からの来訪者には、種類があるのかもしれない」
「なるほど。これまでの予想通り、資源を飛ばしたり、資源にするために活動する勢力と、後から合流する存在のために環境を整えようとする勢力、ですか」
よく考えると、おかしいところがあった。
どこかちぐはぐというか、この星に最終的に用がないのか、そうじゃないのか。
(案外、来訪者にも勢力争いがあったのかも?)
すべては仮定に過ぎない考えが、妙にしっくりくる。
とはいえ、だ。
「そ、でもね……この星に生きてる人るにとっては、どちらも敵だわ」
「間違いないですね。さて、どうします」
「ちょーっと気になるのよね。空から突っ切る。ちょっと飛びましょ」
トラックを降り、ブリリヤントハートへ。
そして、次元収納へとトラックを収納。
「レーテ、それ付けたままやるんですか?」
「大丈夫よ。何かしなきゃ、疲れることもなさそう」
カタリナが言うのは、謎の腕輪だ。
確かに未知の部分もあり、安全性が保証されてはいない。
大丈夫だろうというのは、カンでしかない。
「グリーンダイヤをメインで起動。行ける?」
「少し時間をください。力が強いので……いえ、いけます。え、どうしてこんなに安定して……」
戸惑いの声、カタリナが珍しく本当に焦った表情をしている。
それもそのはずで、つい先日までは安定しなかったグリーンダイヤを動力にした起動。
それが、普段のダイヤ並みに安定しているのだ。
「やっぱりね。これのおかげで、私の力が変化したみたい」
腕輪をつつきながら、力に集中する。
これまでは、どうしても機械を通して観察している、が正しかった。
でも今は、自分の意思が動力、クリスタルジェネレータへと伝わる気がする。
「そういうことですか。わかりました。私も制御のほうに集中します。相棒ですからね」
「ええ、よろしく」
ふわりと、吐き出された推進力によりブリリヤントハートが浮く。
どこかほんのりと、緑の光を帯びた風が周囲に吹くのが見える。
「出力安定、どうぞ」
「じゃ、行ってみましょうか」
浮き上がり、高度を上げていく。
小さくなる木々と地面。
低い場所にあった雲を抜け、さらに上空へ。
そうして高さを確保したところで、驚愕の光景を目にすることになる。
「あれ……何?」
「穴……ですよね?」
遠く、まだかなりの距離があるが……ぽっかりと何か穴のようなものが見える。
問題は、その場所は町があるつもりで向かっている場所だ、ということだ。
「もう少し高度を上げるわ。感知されたくない」
「わかりました。ドラゴン等の警戒は私の方で」
力を注ぎ、さらに上昇。
地上からはこちらの姿がなかなかわからないような高さとなる。
そして、そのまま横移動。
徐々に穴らしき場所に近づき……映像を拡大してみる。
「……露天掘りの鉱山?」
「まるで、無限に続く回廊みたいですよ」
事前の予想とかけ離れた光景が、遠くの眼下に広がっていた。