JAD-172「呼び声」
「さて、これをどう検証するか」
「普通に置かれていたってことは、爆発するとかはないとは思いますけどね」
夕日が部屋を赤く染め上げる。
そんな中、テーブルに置いたのは謎の地下空間から持ち出した道具の数々。
シンプルな造りで、装飾品としての値段はそうないだろうなと感じるもの。
でも、そんな価値のない物があんな場所に一緒に封印されているはずもない。
ある意味で、そう信じていたいというところでもある。
「腕輪と、ベルト、ベストに……指輪、石をはめるのかしらね」
まだベルトはわかるけど、ベストがよくわからない。
布……ではなさそうなのだ。
リング状の部品で編みこまれたもの、というのが正しい。
(この金属……鉄とかじゃないわね)
詳細不明、そんな金属があるとは思っていなかった。
カタリナもベストを手にするが、首を横に振る。
「半分ぐらいは銀なんですけど、残りが不明です。合金なんじゃないかと思います」
「もしかして、外からの素材かしら……」
場所が場所だけに、その可能性が高そうだ。
幸いにも、私が着込んでも若干だぶつくぐらいですみそう。
「データの中には、安全装置、とか手記みたいなのが残ってますけど……なんでしょうね?」
「私に聞かれてもね。こっちは?」
腕輪を手にし、内側も外側も観察する。
表側には、指先ほどもあるおそらく人造石が複数。
嫌な感じはしないけど……さて?
「つなぐ鍵、と。有資格者は必要に応じて、装着しておくようにと」
「有資格者? 意味深ね。でも、悪い感じではなさそうね」
夕日に照らされる腕輪は、ベストと同じような素材でできている。
少し大きく、私が腕を通すとスカスカ……っ!
「縮んだ!?」
「自動で調整がされた!?」
驚く間に、何かを感じた。
腕輪を通じて、何かの流れを感じる。
(違う……体が……思い出してる?)
この感覚は、初めてだけど初めてじゃない。
私の覚えていない何かが、覚えている。
「レーテ、心拍数急上昇してます。体調に問題は出てますか」
「今のところはそっちは大丈夫みたい。暗いわね。灯りをつけましょうか」
口にしてから、気が付いた。
別に外はまだ夕日のまま。
だって、太陽がまだ丸々見えているのだから。
「っ! レーテ、落ち着いて聞いてください」
「目が変なんでしょ。少し光ってるとか」
「自分でわかるんですか?」
横に首を振り、ベッドに座り込んで目を閉じる。
腕輪は……今のまま。
なんとなくだが、外しても一緒という気がした。
この腕輪は、情報通り鍵なのだ。
本来ならば、初めてつなぎ、開くための、鍵。
でも私は、何度目かのようだ。
体の中から溜まっていた何かがあふれ出してくるのを感じる。
「たぶんこれ、石の、星の力を生身でも扱うための物だわ。そうね、ミュータントの力を再現するようなもの」
「危険じゃないですか!」
カタリナの言うことはもっともだ。
危険だと思う力、でも……だ。
JAMで使うことと何が違うというのか。
結局、私というパーツがなければ、ブリリヤントハートは全力を発揮できない。
それはつまり、乗り降り、脱着できるだけで今と変わりないのではないかと。
「大丈夫、私は大丈夫よ。思い出してきたわ」
まるでゲームで条件開放がされるかのように、しみ出してくる感覚。
私はゲーム、おそらくこういう状況への睡眠中の教育ソフト……でも経験したことがある。
(あの施設の設計、運営者はどこまで知っていたの?)
本当に私がいた施設は、正規の物だったのだろうか?
一部の人間による、独断だったのではないか?
パズルが出来上がっていくたびに、本当にこの組み合わせでいいのかという疑問も増える。
ただ……。
「私は私、それは変わらないわ。たとえ、見知らぬ誰かが呼びかけてきたような結果だとしても」
「いつでも言ってくださいね。貴女らしく、私らしく、生きましょう」
そんな優しい声に目を開けば、落ち着いてきたのか視界も戻った。
カタリナに見てもらっても、光は落ち着いている。
しばらくは、要練習、ね。
色んな事が、一斉に動き始める……そんな予感を胸に、一晩を宿で過ごすのだった。




