JAD-171「情報の選択」
突然の出会い。
それは、かつての誰かが研究していた星の話。
宇宙からの来訪者たちの研究でもある。
そこにあった、星の地図ともいえる、力の流れを模型にしたもの。
色々なことが見えてくる。
人類が急速に文明を後退させたのは、人類同士の争いもあったからではないかという疑問。
「ありえない話じゃないねえ。人間、力を持ってると勘違いするもんさ。この後はどうしようってね」
「まだ終わってないのに、ですか?」
「そんなもんよ。それが、人間ってやつだわ」
隕石由来の力は、大きな影響を与えただろう。
クリーンで、事実上永遠のエネルギー。
実際にブリリヤントハートがそうなように、重機すらほぼ無補給で動けるのだ。
私も、水晶に力が溜まるのを待つのが面倒だから、石英を使い捨て同然に補充している。
逆に言えば、時間と交換するものさえ多くあれば、問題がなくなるのだ。
「例えばそう、もともとエネルギーで稼いでいた人たちにとっては、石の力は天敵だわ」
「武器を作っている連中にもとんでもない話だろうねえ。こっちは共存したようだけど」
「私にはよくわかりません。目の前にまだ危機があるのに……」
カタリナの言うことはもっともだ。
当然、当時もこうして意見がぶつかったんだと思う。
(問題は……政府は大体、既存の権益がなくなるのは嫌なのよね)
ゲームの中ですら、そうだったのだ。
未知の技術、エネルギーに全部投資できる人はそうそういなかっただろう。
限られたギャンブラーが、生き残った……のかもしれない。
情報を選択し、どう使うか、それが生死を分けたともいえる。
「それで、ここはどうするんだい」
「どうするも何も、特に使うものがないから……再封印しかないと思うわ」
無人機たちは研究できそうだけど、すべて再稼働できないようにされている。
下手に動かせる状態だと、万一が怖いと思ったんだろうか?
JAMに使えそうなものは、ほとんどない。
情報だけコピーして、再封印がおそらく……。
「それもそうかねえ。もったいない気もするが、下手な餌は太るもとかね」
「じゃあ、コピーを始めますね。まずは……」
作業を始めたカタリナを見つつ、フロアを歩く。
色々な機械が固定されているが、まるで標本が並んでいるかの様。
「今にも動き出しそうで、ぞっとしないねえ」
「まったくだわ。多くが無傷だから、どうにかして無力化したんでしょうけど」
しばらく歩いていると、開けた場所に出る。
入口からはよくわからなかったのは、無人機たちが邪魔だったからだ。
そこに置かれていたのは、シリンダー。
大きなものから、指先ほどの試験管のようなものまで。
「どう考えても、普通の液体ではない気がする……焼却でもしたほうが?」
「知ってるかい? 山火事を利用して遠くまで飛ぶ植物がいるんだよ」
私の提案は遠回しに却下された。
確かに、見えない何かの状態で拡散されたら最悪か。
なんとなく、生物的な気配を感じる。
(ミュータントが産まれた原因とか? まさかね)
念のためにその場所から離れると、今度は人間サイズのあれこれが見つかる。
その中には、装飾品すらある。
指輪や腕輪、ベストのようなものまで。
なんだ、有用そうなのがあるじゃない。
「この辺は外で調べてみようかね?」
「じゃあいくつか……大丈夫よね?」
誰にでもなくつぶやきながら、適当に感じるままにいくつかを持ち出す。
そうしてカタリナの場所に戻れば、ちょうどコピーが終わるところだった。
あとでじっくりまとめるとして、コピーを優先したおかげだ。
「ひとまず、一番役に立ちそうな地図を先に検証しますね」
「ええ、そうしましょう」
そうと決まればこの場所にもう用はない。
一応、大したものはなかったという口裏合わせをしてから外へ。
ま、普通の人には役に立たないという点では大した物は無かった、のだが。
「ありがとうよ。いい経験ができた」
「こちらこそ。自分たちだけじゃないっていうのは、安心できるもんだなって思いましたよ」
「おばあ様、またいつか」
車椅子の彼女と別れ、今日の宿へと向かうのだった。




