JAD-169「敵か、味方か」
町に入ってすぐ、駐車場として他にも車両が駐車されている場所で降りる。
見える範囲では、当然戦闘は終わっている。
「見た目は言っちゃなんだけど、普通の町よね」
「そうっすね……あ、知り合いがいました」
トラックから降り、町を眺めているとライアンが指さす先から青年がやってくる。
こちらにくる青年の顔には、笑顔。
「ライアン! 無事だったか!」
「なんとかな。こちらは向こうの作戦に参加してくれたレーテさんとカタリナさんだ。今どんな感じだ?」
ライアンが話を聞き出す間、カタリナとともに一応雰囲気を探る。
石の力が変な流れになっていないか、等だ。
確認できる範囲では、確かにわざわざ戦力を分けて取り返す町じゃない。
あの煙突のようなもの、それがある場所に何かがあるのかな。
どうも、見えない何かがある気がしてならない。
「姐さん、話は聞けましたよ。こっちのリーダーの場所も聞いておきました」
「そう? じゃ、歩きながらでいいかしらね」
「みなさん、片付けに追われてる感じですね」
そう、あちこちでがれきを積んだり、空のトラックが走っている。
被害もはっきりしており、今から向かう方向に行くほど、壊れているといった感じ。
事前の話が本当なら、無人機もわかってるということになる。
(一体どれだけ情報が収集できているのかしら? それにしては、ピンポイントすぎる)
ライアンの話を聞きながら、先導してもらいつつ進む。
相槌を打ちながらも、どうしても思考がそれるのを感じる。
無人機は、宇宙からの来訪者だ。
その大本には、人類と似たような存在がいる。
……それこそ、最悪の場合は別の星に定着した人類かもしれないが。
資源や石の力を発揮させた存在を現地で集め、宇宙に必要なものを運び出す。
そのために動いていると思っていたけれど、そうじゃない奴もいるんだろうか?
少なくとも、地下に埋もれているものを遠くから見つけることができるのはなぜ?
「レーテ、着いたみたいですよ。レーテ?」
「え? ああ、ごめんなさい。ちょっとね」
そうこうしてるうちに、リーダーのいる場所に着いたようだ。
同時に、謎の煙突のようなものがある場所でもあった。
どうやら、先頭を切って調査中、ということみたい。
「お疲れですか? ちゃちゃっと行ってきますね」
止める間もなく、ライアンが駆け出し、すぐに戻ってきた。
同時に、もうおばあちゃんじゃないかという人も一緒だった。
近くにくるとすぐわかる。
この人、相当な手練れのジュエリストだ。
今はけがをしているのか、車椅子だ。
「ばあちゃん、こちらが」
「いいよ、わかる。あんたがレーテだね? うん、言うだけのことはある。元気だったとしても私じゃとてもかなわないね」
「おばあ様こそ。そこまで生き残って研磨された人生、尊敬いたします」
膝をつき、目線をあわせて挨拶。
別にへりくだるというつもりはない。
けど、目の前の人がこれまでに生き抜いてきたあれこれに、勝手に感激してるだけだ。
感じる力も、非常に洗練されている。
「よしな。おばあちゃん、でいいよ。そっちの子も、普通じゃないね。なら話は早いか……来な」
おばあさんに案内されつつ、建物の中へ。
ライアンは、他にやることがあるからと別の場所へ。
不思議と、空気がすっきりした気がする。
周囲では作業着姿の人員が、何人もあれこれ調査中といったところ。
「わかるだろう? 埃とかを入れたくないのさ。上には何もない。あの煙突以外はね。だから、若いもんがよく涼みに来てたもんさ」
「おばあちゃんはここに何があるか知ってるの?」
確かに、見た限りでは普通のホールというのか、集会場みたいな。
とても工場とかそういう類には見えない。
でも、言われてみれば足元がなんだか……。
「具体的には知らないよ。ジュエリストのカンが言ってるのさ。下手な使い手だと飲まれるってね」
「飲まれる? それはどういう……レーテ、おかしいです。ここ、混ざってます」
「カタリナ? 混ざってる……!?」
おばあさんは満足そうにうなずいた。
私たちの視線の先では、急に造りの変わった扉。
いつの間にか、私たちとおばあさん以外、誰もいない。
「後ろを見てみな。そこの扉はね、ある程度以上の力がないと通れないのさ。そっちの嬢ちゃんは別の意味で通れたみたいだが」
おばあさんと私はその力の強さで、カタリナは……機械だから?
少し、ゾクっとするものを感じる。
「ここは、どっちが作ったんですか?」
「さてね。予想でよければ、空の裏切り者、かねえ」
(空の、裏切者……有人機がいた? いや、でもそれは……不可能だ)
どうなるかもわからない宇宙の旅。
だからこそ、隕石に偽装し、遠い遠い宇宙の旅へと機械を停止状態で送り込む。
それが、空からの来訪者の正体のはず。
「本当のところはわからないよ。でもね、あんたたちが感じたように、ここは私たちが作れるようなもんじゃない。ほら、見てみな」
「コンソール……でもこれは、隕石の中の……!」
「つい最近見た覚えがありすぎて、困っちゃうぐらいね」
そう、たどり着いた行き止まり。
そこには外では見ることのない、コンソールと扉。
なるほど、これは下手に手を出せなかっただろう。
何があるかわからないけど、前文明の遺産だと思ってしまう姿。
「私は長いとこ、この町に住んでてねえ。何もこれ以上わからないってとこまでしかわかってないのさ」
「信号送受信を確認。解放条件を受信、レーテ、ダイヤです。カラーダイヤを複数必要とします」
「カタリナ? そう……」
ブリリヤントハートを動かすための石たちは、ポーチで持ち歩いている。
防刃だったりして、脱落しないようにしてある丈夫なポーチに、ね。
そこから、複数の石を選び、コンソールの前に立つ。
「ここか……この部分全体が核の動力代わり……」
皿のような場所に石を置いただけで、すぐに力の流れが変化していく。
一定以上の力がないと、解放できない。
そんな、謎のセキュリティ構造にめまいがしそうだ。
「行きます」
力を動かし始めた途端、ドクンと周囲が脈動した気がした。




