JAD-168「平和な移動」
「今さらだけど、ついてきてよかったの?」
「父親にどやされましたっす。恩は返して来いって」
町の移動中、本当に今さらだけど聞いてみた。
返ってきた答えは、少しあきれた様子。
そりゃ、だめなら同行自体を断るわよね……。
トラックにライアン1人を同乗させての移動なんて、さ。
すでに数日経過してるのに、本当に今さらだった。
彼にとっては、私たちは恩人であり、友人の様でもあり、不思議な相手なようだ。
ふとした時に変わっている口調がそれを証明している。
「それに、あいつらは決まったラインにしか出てこないんですよ。ここは、そのラインの内側なんで」
「へぇ、そうなんだ」
「画一的にエリアを見てるんですかね?」
カタリナは、荷台側の銃座を直接見ている。
席が狭くなるから、仕方ないわよね。
会話をしつつ、頭に浮かぶのは地図。
ただし、ゲーム的な地図で、色が赤と青に塗り分けされてる感じ。
領土の区切りを示すのに、大体ああいうのってはっきりわかれてるじゃない?
「そのあたりは、本当に機械的ね」
無人機だから当たり前、かもしれない。
それにしても、だ。
今回の相手はなかなか、危ないところだった。
大きさはこれまでにもあったようなものだったけど、まさか中空とは。
「私も、気を引き締めないとね」
「レーテなら大体の相手には勝てますよ。私がいます」
「言うじゃない? ま、そうなんだけどね」
ブリリヤントハートに限らず、JAMの武装は強い。
出力が違うから、というのが一番の理由だ。
対して、装甲はそう強くない。
どちらかというと、実弾への防御性能のほうが重視されている。
(石の力の場合は、当たれば大体貫かれるからってのもあるのよね)
「姐さんが勝てないなら、自分たちじゃ絶対勝てないと思うっす」
「そう言ってくれるのはうれしいけど、私がいない生活が本当なんだものね」
「矛を撃退するのに、こちらも矛を持たないといけない、終わらない戦いですね」
昔から、人間はそうしてきた。
平和な時代もあったけど、それは矛の形が変わっただけだ。
例えば情報であったり、とかね。
「俺たちは普通に生きていければそれでいいんですけどね……っていうか、この車すごい静かですよね?」
「あ、わかる? その辺も特別製なのよ。速いし」
メテオブレイカーの施設で改修されたトラックは、かなりの性能を誇っている。
例えばそう、多少の悪路なら進めるように、前側に石の力でフィールドを張っている。
重機のように、石ころ程度ならはじくぐらいはできるのだ。
そのうえでそこそこ速度を出してるから、近くを通る相手がいたらちょっと危険かな。
「これなら、すぐ着きそうっす」
「早い方が良いわよね。カタリナ、後どれぐらいかしら?」
答えを聞く前に、荒野の先に変化があった。
まだ遠いけど、確かに町並みがある。
それに、大きな煙突のような建造物も。
「石の力は荒れた様子はないわね」
「戦闘は終わってるといってましたしね」
ライアンの緊張が伝わってくる。
無事と聞いてはいても、無人機がいた場所に行くのは、気になるんだろう。
それでいい、と思う。
警戒心とか緊張がなくなると、人は簡単に落とし穴に落ちるから。
私だって、表に出さないだけで警戒は必ずしている。
「呼びかけはしつつ、銃座は稼働しておいて」
「了解。無線通信開始します」
「あの煙突みたいなの、なんすかね」
やっぱり、普通じゃないみたい。
ライアンからも疑問が出るあたり、本来ないんだろうな。
「悪い物じゃないと思うわよ? ま、わかってないだけかもしれないけど」
「下手に破壊すると爆発する奴とか、たまーにありましたもんね」
これまでの探索を思い出すカタリナの言葉に、頷きを返す。
それが何か説得力を生んだのか、ライアンも神妙な感じで頷いた。
「大丈夫大丈夫。問題があれば吹き飛ばしちゃえばいいから」
「そういう問題っすかね?」
打ち解け半分、緊張半分。
口調が混ざったライアンの顔に、笑顔が浮かんだのを見ながら、町へと近づいていく。




