JAD-165「着ぶくれの凶刃」
「あれは……JAMでしょうか?」
「私たちの知らないタイプだけど、そういう方向の相手でしょうね」
まるで、ビルをちぎって付けたかのようなちぐはぐな造りだ。
ただ、その無数の砲塔が暴力性を示している。
傘立てに乱暴に突き刺された傘たちのような……何とも言えない数。
「来るっ!」
チリリと、刺すような気配。
驚くことに、こいつからは殺気のようなものを感じる。
相手の砲塔がいくつか動いたと思ったら、濁った光の帯が飛んできた。
当たるわけにはいかないけど、その威力は肌で感じるってやつだ。
「レーテ、これは!」
「わかってる。これまでの無人機とは違うわねっ」
不思議なことに、獣以外の相手は動きを鈍らせた。
その場から動かず、弾を放つだけ。
増援も、目立った動きを見せていない。
(つまり、リアルタイムでこの相手の操作に何かのリソースが使われてるっ!)
「私たちにとっても、好都合ってやつよ! 接近用意、押し込む!」
「ASブレード、いけます!」
砲撃をかいくぐり、巨体へと接近。
ダイヤの力でまばゆい刃を伸ばしたASブレードを振るい……っ!
(重い、何も見えないのに、この手ごたえ!?)
見えないけれど、何かを切っていく手ごたえ。
水の中で腕を振るうかのような抵抗が生じたことで、慌てて下がる。
その場所に、敵機の胴体部分から砲撃が襲ったのはすぐ後だった。
だいぶ細い光だから、ダメージは少ないだろうけど……そのぐらいは対策してるか。
「厄介ね。観測できた?」
「はい、力が減少してますね。軽減? いえ、何でしょう。表面数メートルがおかしいです」
「ひきつけつつ、観測を続けましょう」
空を飛びながら、射撃を続ける。
その多くが直撃コースなのだけど、相手は目立った回避行動をしない。
光の帯が明らかに細くなり、当たってもそれは装甲部分にはじかれてるように見える。
「起きてることは、軽減、減少なのよね」
「はい。ですが指向性のある軽減フィールドなんて、あり得ると思いますか?」
「この星の人類によって、なら無理でしょうね。そこまで制御できていたとは思わない」
ただ、相手は星の外にいた存在、その技術だ。
私たちの、過去の人類が知らない使い方、技術もあるのかもしれない。
現に、腕部分からの砲撃はそのままこちらに迫り……ん?
「攻撃チェック。手足を狙う!」
「了解。攻撃箇所選定します」
すぐにモニターへとマーキング。
砲塔や関節と思われる場所が光っていた。
本体ではなく、そちらを狙い始めると、動きが変わった。
明らかにかばったり、回避行動をするようになったのだ。
「でも、その巨体ではねっ!」
「敵機、徐々に下がっていきます!」
距離があれば、防衛手段のある本体に攻撃をそらしやすい。
そう考えての動きだと思う。
つまり、相手にはそれだけの頭があるということだ。
「こっちを誘導するつもりじゃないといいけど……ライアン! あいつを追うわ。いける?」
『なんとか! 無人機の動きは余裕ですから!』
どうやら、リソースの偏りは変わっていないらしい。
こちらも返答をしつつ、敵機を追いかける。
足元の建物を踏みつぶしつつ、敵機は徐々に郊外へ。
「逃げられるとは思わないことね」
「どっちが悪役かわからないセリフですよ、それ」
軽口が飛び出すのも、結果が出てきたからだ。
手足を狙った攻撃は、いくらかは防がれたけど、残りは直撃。
長い手足、その表面は分断され、物騒ながれきとなって落下していく。
ヒントは先ほど見た光景だ。
相手の胴体にあった砲塔からの攻撃、それ自体も減少していた。
つまり、この減少フィールドは指向性はなく、一律に影響を及ぼす。
そして、その範囲は本体のみで、手足には影響がなかったのだ。
「敵機砲撃量、明確な減少を確認」
「なら、もう一回!」
再びASブレードを構えさせ、突撃。
ある程度の被弾は上等で、敵機へと接近。
その腰元が、詳細に見えるほどの距離となれば謎のフィールドも分厚い。
(でも、装甲に直なら?)
こちらの目的を見抜いたのか、軽減されていても無視できない砲撃が続く。
「損傷率上昇! 危険です!」
「無傷はスコアはあがるけど、これは現実なのよね!」
勝算はあった。
こいつは、今のように小さい相手との接近戦はあまり想定されていない!
なら、それをやるだけ……こうしてね。
「伸びろっ!」
至近距離、装甲に突き立てる勢いでASブレードを前に。
装甲のない部分に切っ先を突き入れ、そこから力を発動。
一気に刀身を伸ばし、機体を上に飛ばす。
モニターを光で染め上げながら、敵機を一気に切り裂いていく。
大きさから、分断とはいかないけど、大きくお腹を切り裂いたような感じに。
さて、どんなコアが……人型!?
「内部に砲塔確認!」
「この距離で!?」
相手が生き物ではなく、金属、機械の塊だという認識が足りなかった。
人間でいえばお腹の中、内蔵がある場所には謎の人型のほか、無数の砲塔が見えた。
確認するまでもなく、石の力の反応が多数!
「被弾! 背面武装、両足消失!」
「まだ撃てるなら、これでっ!」
中からの砲撃に、相手も自分の体部分を焼き払うようなものになっていた。
まさかの攻撃に、大きく損傷するブリリヤントハート。
コックピット内部にも石の力が余波として駆け巡る。
その力の流れに酔ってしまいそうだが、動くのならばまだいい!
「終わりよっ!」
人型の奥に見えた核部分、その力の源にあるものが何かをスキャンする前に、一撃。
反撃に、ブレードを構えたままのほうの腕も被弾。
それにひるまず、続けて光の弾丸を叩き込む。
「退避っ!」
すぐさま、周囲の機械もその光で染め上げながら、外へと飛び出した。
確実に決定打を打ち込んだ手ごたえ。
そうなれば、相手が崩れ去る予感もしたからだ。
ライフルを構えたまま、浮いて警戒を続ける。
そして……相手は崩れていった。
「敵機沈黙!」
「すぐに相手施設の確認と無力化に移るわ。歩けないから、浮いたままでね」
(久しぶりにこんなダメージを受けたわね。どう直そうかしら)
両足を膝付近から消失、ブレードのあった右腕もだ。
幸い、ブレードは勢いよく飛んでいき、街中に刺さっているのを見つけた。
片腕のライフルは無事なので、凍結は可能だろう。
『姐さん、すごい音がって、やべえじゃないっすか!』
「別に爆発はしないわよ。それより、まずは相手施設の無力化よ。ついてきて」
まだしばらく、休憩は先になりそう。
そのことに少しため息をつきつつ、後始末に取り掛かるのだった。




